【ドライバーズカーの模範解答】BMW 2002と3.0 CSL 本質を映すクーペ 前編
公開 : 2021.02.20 07:05 更新 : 2021.05.18 16:19
同時期のスポーツサルーンをナンセンスに
近年では、3.0 CSLの評価は上昇の一途。現役時代に生まれていなかったBMWファンによって、さらにその人気は高められている。実際、最も美しいクーペの1台だ。
BMW 2002は、4ドアサルーン用の2.0Lエンジンを、ひと回り小さく軽量な2ドアボディに搭載している。生み出された理由は、ツインキャブの1600tiにかわる高性能モデルを、北米市場へ提供するため。新しく施行された、環境規制に対応する必要があった。
北米でBMWの輸入業を営んでいたマックス・ホフマンは、ビッグ・ボアのエンジンを小さなボディに搭載するというアイデアを思いついた。同時に、BMWも同様の考えを持っていた。
若干の価格上昇と車重増は避けられなかったが、最高速度172km/hの4シーターとして2002が誕生。燃費は10.6km/Lへ向上させつつ、3速で引っ張れば144km/hに届いた。遂に、「マルニ」が道を走り出した。
英国での2002の価格は、当初1600ポンドから。ローバー2000TCに並ぶ価格で、ロータス・コルティナなど、同時期のスポーツサルーンをナンセンスな乗り物にする衝撃があった。
1971年に登場した2002tiiは、今も注目を集めるグレードではある。この時期の機械式インジェクションは珍しい。だが当時は、シングル・キャブレターを多くのドライバーは選んだ。パワーウエイトレシオは100ps/t以上あり、充分な活力があった。
5シーターのファミリーサルーンとして、ほどなく2002はBMWの主力モデルへ成長。エントリーモデルの1600が敷居を下げ、入り口を広げた。
飾らない、実用的で高品質という印象
ヘアピン・カンパニー社が所有するタンジェリン・ボディの2002は、英国でも随一のコンディション。1972年式で完璧にレストアされており、3万5000ポンド(490万円)という今の売値も手頃に思えてしまう。
近づいて観察しても、細部まで見事に、正しく仕上げてある。ここまできちんとした2002を目にするのは、かなり久しぶりだ。
1980年代まで、英国の道端にはありふれた存在だった。ボクシーで窓ガラスが大きいキャビンを備え、かなり保守的なサルーンに見えた。当時のイタリア製サルーンと比べると、特に。
明るいオレンジ色のボディが、リアガラスの大きい後ろ姿を活気づけている。奇抜さを求めたわけではなく、視認性などを理由にBMWが設定した、クラシカルな色だ。
ルーフラインは高く、ボディをぐるりと囲むベルトラインが入り、見る角度ではNSUプリンツにも似ている。コンパクトでありながら、堂々としている。細部まで機能美があり、惹き込まれるような雰囲気は、1970年代の量産車としては珍しい。
結婚し家族が増えたり、地位やファッションを気にするようになったトライアンフTR6やMGBのオーナーにとって、BMW 2002は天からのお告げのような、理想的なクルマに見えたに違いない。
大きなフレームレス・ドアを開いて目に入るインテリアは、質実的。華やかな部分はないが、見た目に美しくない部分もない。
ヘッドライトのスイッチは滑るように動き、クラッチペダルもスムーズ。飾らない、実用的で高品質な素材に包まれているという印象は、2002を象徴するようでもある。
この続きは後編にて。