【究極のXKになり得た】ベルトーネ・ジャガーXK150 現存1台 魅了するクーペ 前編
公開 : 2021.02.21 07:05
ミラノからカリフォルニアへ
スポットライトを浴びなかったベルトーネ・ジャガーXK150だが、ミラノで保育園事業を成功させたトムマソ・インゲニョーリが最初のオーナーになった。親族のフランチェスコは、インゲニョーリがスタイリッシュで速いクルマに夢中だったと振り返っている。
当時のフェラーリには満足できず、ル・マンで圧倒的な活躍を残したジャガーに強い感銘を受けていたという。XK150の210km/hに迫る最高速度へ強く惹かれた。だが、古びだスタイリングは似合わないと考えていた。
ミラノのディーラーから入った、シャシーだけのXKの注文をジャガーは承諾。左ハンドルのシャシーが、1957年にベルトーネへ届けられた。シャシー番号はS834365だった。
フランチェスコが記憶をたどる。「元の色は、メタリック・ブラウンでした。後年、ブルーに塗り直されています。ボディに小さな問題を抱えていましたが、ベルトーネによって直されています」
しばらくしてベルトーネ・ジャガーXK150はアメリカへ輸出される。当時のイタリアン・エキゾチックの運命としては、珍しくなかった。カリフォルニアに運ばれると、カーコレクターのドン・ウィリアムズの目にとまる。
その後しばらく、カリフォルニア州のイーグル・ネスト・プラザ内の博物館で、ブラックホーク・コレクションとして展示された。赤いボディのDタイプとともに、主役級のクルマだった。
1998年になると、ペブルビーチ・コンクールに備えてレストアを受けている。ボディは真っ赤に塗り直され、インテリアは薄ピンク色で張り直された。
ジェットブラックを引き立てるタン・レザー
残念にも、ラテンの美しさを充分に発揮できないカラーだった。しかし、ジャガー専門ショップを経営するトム・ズワクマンに見つけ出され、オランダへと移った。
2013年に英国のクラシックカー・ディーラー、DDクラシックス社のダニー・ドノヴァンがズワクマンのガレージを訪問。ばらばら状態のベルトーネ・ジャガーXK150の存在に気づく。その可能性に大きな期待を抱き、クルマを引き継ぐ決意をしたという。
「ズワクマンはレストアを進行中でした。チューニングを受けたエンジンはリビルドが終わり、特別なヘッドとトリプルSUキャブ、軽量フライホイールが組まれていました」
「ボディのレストアでは、ブルーやメタリック・ダークグルーンなど、これまでに塗られていたペイントが見つかりました。しかし、わたしはジェット・ブラックが良いと思ったんです」
「リアガラスの再成形は、チャレンジングなものでした。ボディにフィットさせるため、4回も試作しています。リアバンパーの再メッキも難しい作業でした。大きすぎて、クロームのタンクに入らないんです。最終的に切断しています」
「完璧主義なところがあり、ハンドメイドのステンレス製トリムも作り直しています。多くはワークショップ内で仕上げましたが、内装トリムは英国内の職人に依頼しました」
ドノバンの嗜好が、インテリアを生まれ変わらせた。明るいブラウンのタン・レザーで統一された内装は、エルメスのバッグのような風合いがある。艷やかなブラックのボディを、見事に引き立てている。
この続きは後編にて。