【ポルシェはRRかEVか】911カレラS vs タイカン4S 後編 走りの魅力は911の圧勝
公開 : 2021.02.13 21:45
絶対的な安楽か、楽しめる苦労か
だが、クレバーさではタイカンが上を行く。それも、比べものにならないくらい上をだ。実際より速く感じるだけでなく、小さく、軽くも感じるが、これを成し遂げるのは一筋縄ではいかない。
テストしたタイカンは、1650ポンド(約23.1万円)相当の後輪ステアリングを備え、3m近いホイールベースを持つ巨体につきまとう最大の悪癖の改善を図っている。とはいえ、俊敏かつ正確、かつ鋭いハンドリングの根拠をそのことだけに求めるのは難しい。入力へのレスポンスのよさについてもそうだ。
たまに、魔法のようとまでは思えないこともあるが、それでもなお、魔術に近いものがある。静かに、そして愉快に、911の背後をぴったりと尾けるが、ドライバーが求められる労力はわずかだ。
911のドライバーは回転数に気を配り、尽きることなくシフトレバーを操り続け、額に汗して運転に勤しむだろう。対するタイカンのドライバーは、静寂の中にリラックスして座り、そんな相手の様子を思い浮かべただけでうっすらと笑いが浮かぶはずだ。
ところが、前を行く911の車内で、ドライバーの顔には満面の笑みが浮かんでいる。それがすべてだ。
運転を楽しむなら911しかない
タイカンは、速さも旋回Gも911と同等かもしれないし、大人4名が快適に過ごせる空間を備えているのはなによりのアドバンテージだ。ところが、ラゲッジルームは4名分の荷物を積むにはあまりにも小さい。
そして、遠く及ばないのは、些細ながら決定的なある一点である。先にも述べたように、ドライバーを夢中にさせるかどうかだ。タイカンの魔法も、そこではある程度までしか用をなさない。
992の非凡さは、走り出しからドライバーを夢中にさせることにあると先に述べた。しかも、それは限界までずっと高まり続ける。反対に、タイカンはどのフェイズを切り取っても、911ほど熱中できる場面はない。しかも、本気で走り込んでいくと、多少ながらサイズとウェイトを感じさせはじめる。
そこを真っ向から比較するのは見当違いなのかもしれないが、それでも運転好きとしては間違いなく911を選ぶ。
確かにタイカンはその体格と2220kgもある重量から予想するよりずっといい走りをみせ、多くの点で期待以上の結果を成し遂げた。ダントツで世界最高峰のEVであり、新車市場を見回してもこれほどクレバーなトリックを可能にするクルマはない。心からの賞賛とリスペクトを贈りたい。いや、それでも足りないくらいだ。本当に好きになった。
充電が問題にならないなら、タイカンは断然おすすめといえる。ただし、運転するものとして、911に取って代わるとは考えないでもらいたい。そうはいかないし、今後もそうなることは決してないはずだ。