【ガルウイングの2台】デロリアンDMC-12とブリックリンSV-1 理想と現実のギャップ 後編
公開 : 2021.02.27 17:45
銀幕のスターになったデロリアンと、知る人すら少ないブリックリン。未来のスポーツカーを夢見て誕生した、ガルウイングの2台をご紹介しましょう。
安全性を最重視したブリックリンの設計
ブリックリンSV-1のプロトタイプには、多くの先進的な技術が取り入れられていた。着色アクリルとFRPを用いた、真空成形でボディパネルを製造。安価で交換が簡単なだけでなく、耐久性にも優れているという触れ込みだった。
スバル360の販売で得た経験を活かし、SV-1は16km/hでの壁の衝突に耐えられるインパクトバンパーを前後に装着。ルーフを支えるピラーは太く、高いサイドシルを備え、事故に耐えるロールケージを内蔵した。その構造をセーフティ・セルと呼んだ。
ボディは、セーフティ・レッドやセーフティ・オレンジという名の付いた、鮮やかな色に設定。路上での視認性を高めている。
ところがメルセデス・ベンツ300SLに影響を受けたガルウイング・ドアは、純粋な美意識で採用されている。実際は、クラッシュしたSV-1から脱出する際、不利になる可能性には目をつぶった。
価格は6500ドルと、当時でも安価に設定。とにかく、初期のブリックリンには興奮する要素がたくさん含まれていた。
他方のデロリアンは、北アイルランド開発政府から1億ポンドの融資を引き出し、ダンマリーの町に生産工場を用意した。DMC-12がマスコミに発表されたのは、1981年。ブリックリンの記憶と重ねた人も多かっただろう。
ジウジアーロが描き出したボディは、SV-1よりはるかに洗練されモダンなものだった。しかしカナダ生まれのクルマと同様に、悩みの多いイノベーションにも挑戦していた。
見どころのないドライブトレイン
デロリアンでもボディは塗装されず、耐久性の高いステンレス鋼板を採用。半光沢のブラシ仕上げで、25年の腐食保証が付けられた。
ステンレスの内側には、軽量かつ強固なFRPでアンダーボディを形成。ロータス・エスプリのような、ダブルYフレーム構造のバックボーンシャシーで支えている。新しいスポーツカーとして、蓄えた資金を支払わせるのに充分な魅力を備えていた。
ブリックリンSV-1もデロリアンDMC-12も、間違いなく見た目は未来的。ボディには先進的な材料が選ばれ、製造技術も注目に値するものだった。一方で、選ばれたドライブトレインには見どころがない。
フロントエンジンでリアドライブのSV-1は、AMC製のシャシーを採用。初期のモデルでは、5.9LのAMCホーネット用V8エンジンが搭載された。
AMCからエンジンの調達が難しくなると、フォード製ユニットにスイッチ。ウインザーと呼ばれる5.7LのV8エンジンが積まれた。
デロリアンDMC-12では、当初ミドシップ・リアドライブが検討されていたが、リアエンジン・リアドライブへ変更。エンジンも紆余曲折を経て、プジョーが製造するV型6気筒、ドゥヴラン・ユニットが搭載されることになった。
このV6エンジンは、当時のプジョーとルノー、ボルボがジョイントベンチャーを組んで開発したもので、PRVとも呼ばれる。パワフルでも個性的でもなく、スポーツカーよりサルーンに適したユニットだった。