【ガルウイングの2台】デロリアンDMC-12とブリックリンSV-1 理想と現実のギャップ 後編

公開 : 2021.02.27 17:45

期待に届かないパフォーマンス

北米仕様では厳しい環境規制に合わせ、2849ccの排気量にも関わらず最高出力は131ps。短命に終わったデロリアンの、冴えない動的性能を決定づけた。

右足を目一杯蹴り込めば、0-97km/h加速はなんとか約10秒でこなせた。長い下り坂なら、180km/hくらいの速度に迫れた。サスペンションはソフト志向で、重たいリアエンドを支えるには役不足だった。

ブリックリンSV-1(1974〜1976年)
ブリックリンSV-1(1974〜1976年)

甘く見ればひどいというレベルではなかったものの、事前の触れ込みや期待は非常に高く、多くの人の失望は隠せなかった。発表当初は多くの注文が入ったが、ほどなく市場の反応は鈍くなった。

パワーユニットという点では、ブリックリンはまだアメリカンな血統を受け継いでいる。フォード製のV8エンジンは、サルーンのギャラクシーからクーペのマスタングまで、幅広く採用されていたものだ。

重々しいノイズで回るPRVのV6エンジンと比べると、ウインザーV8のノイズはドライで心地いい。こちらも厳しい環境規制に合わせて、最高出力は177psに絞られていたが、まだ気晴らしはできる。

最大トルクは39.1kg-mもあるから、リアタイヤを滑らせて楽しむことも無理ではない。ただし、白煙を挙げる勢いはあっても車重は1615kgあり、絶対的なパフォーマンスが高いわけではない。

ブリックリンの0-97km/h加速はデロリアンより2秒ほど鋭い。だが、カタログの最高速度では負けている。

夢に描いた理想と現実のギャップ

デロリアンDMC-12は、間違いなくスタート時点では好調だった。初期の注文は活発に入り、プロジェクトが軌道に乗りかけた時期もあった。

しかし経済の減速とパフォーマンスの悪さ、信頼性の低さに加え、資金提供していた政府の対応がデロリアンの足を引っ張った。1982年にダンマリーの工場が閉鎖されるまでに、8583台がラインオフしている。だが、需要が供給を超えることはなかった。

デロリアンDMC-12(1981〜1982年)
デロリアンDMC-12(1981〜1982年)

ブリックリンも悪くなかったが、デロリアンより先に同じ問題に直面した。失業していた林業関係者や鉱山労働者は、先進的なスポーツカー工場の従業員として適任ではなかった。生産は遅れコストは上昇し、品質は低下。ブリックリンSV-1の価格は、2年間で2倍に膨れてしまった。

カナダ、ニュー・ブランズウィックの政府が事業に見切りを付けたのは1976年。工場を出発できたSV-1は、3000台に満たない。

ダンマリーとニュー・ブランズウィックの人々に、安定した仕事と明るい将来を提供するという希望も、実現しなかった。両車にも、理想の姿には届かないという悲しい現実があった。

しかし、デロリアンDMC-12は特に、男の子を夢中にさせてきたことは間違いない。ブリックリンSV-1も、実際は噂ほどひどい仕上がりでもない。

継続的な投資があり、自動車メーカーとして努力を続けていれば、成功を掴むことはできたかもしれない。未来を夢見て作られたクルマも、今ではすっかり過去のもの。理想と現実とのギャップは、少々大きかったようだ。

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