【納期のびるも……】クルマの売れ行きのびないワケ メーカーは納期短縮の努力を

公開 : 2021.02.19 05:45  更新 : 2021.10.22 10:13

トヨタでは「全車扱い」体制が影響?

あるトヨタのディーラーは、「アルファードの納期は3か月以上だ。とくに最上級のエグゼクティブラウンジは、4~5か月を要することもあって納期が安定しない。ハリアーはさらに長く、ノーマルエンジンが4~5か月、ハイブリッドは半年以上だ」という。

これらのトヨタ車で納期が大幅に伸びた理由として、2020年5月に、トヨタの全販売店でトヨタの全モデルを売るようになった販売体制の変化も挙げられる。

トヨタ・アルファード(上)/ヴェルファイア(下)
トヨタ・アルファード(上)/ヴェルファイア(下)    トヨタ

従来のアルファードやハリアーは、トヨペット店だけが販売していたが、今は全店が扱うために売れ行きが伸びた。それが納期を長引かせている。

ちなみに2017年12月にマイナーチェンジを実施した時のトヨタによる月販目標は、アルファードが3600台で姉妹車のヴェルファイアは4500台であった(このマイナーチェンジまではヴェルファイアの方が多く売れていた)。

両モデルを合計しても月販目標は8100台だが、最近はアルファードだけで1か月に1万台を超えることが多い。そうなれば納期も長引く。

逆にヴェルファイアの登録台数は、前年の半数程度まで下がった。

過去を振り返ると2020年4月までは、アルファードはトヨペット店、ヴェルファイアはネッツ店と区分されていた。

そのために2020年の前半まで、ヴェルファイアはアルファードの30%程度は売れていた。それが直近の2021年1月は、ヴェルファイアの登録台数はアルファードの10%以下まで落ち込んだ。

このように全店が全モデルを扱う体制になってトヨタ車同士の販売格差が広がり、好調に売れる車種は生産が追い付かず納期を遅延させてしまう。その結果、コロナ禍以降に販売が回復する時の妨げになっている。

納期の短縮につとめるべき

今の状態を見る限り、クルマの納期は頻繁に変化する。

販売店に問い合わせないと、正確な納期はわからない。従ってクルマを購入するなら、早い時期から商談を開始した方が良い。

トヨタ・ハリアー
トヨタ・ハリアー

前述のとおり、今は新車需要の約80%が乗り替えによるもので、愛車の車検満了にあわせて新車を買う。

納期が予想以上に伸びると、納期を待つために愛車の車検を取り直したり、下取り車だけ先に手放してクルマのない生活を送らなければならない。納期の遅延も視野に入れ、購入時期を前倒しする必要がある。

納期の遅延はユーザーにとって迷惑だから、メーカーも納期短縮に力を入れるべきだ。

販売店からも「登録しなければ、車両価格が入金されない。納車を待つお客さまには、時々連絡を取る必要もあり、納期の遅延は販売店にとっても困る」という話が聞かれる。

最近の新型車では、納車を伴う発売の2~3か月前から受注を始めるケースもみられるが、これもあらためるべきだ。

受注を早期に開始すると、メーカーにとっては売れ行きや人気のグレードが生産開始前に分かって都合が良いが、顧客は長々と待たされる。今では遅延気味の納期をさらに伸ばすことになってしまう。

マツダの場合、以前は受注の開始時期と発売が大幅に離れていたが、MX-30ではその時期(間隔)を大幅に近づけた。多くのユーザーが、実車を見たり試乗したうえで契約できる。

マツダでは「受注開始が早すぎると、資料だけで商談することになり、契約後もお客さまを長くお待たせする。お客さまと販売店の両方から評判が良くなかったので、MX-30では受注の開始時期を元に戻した」という。

メーカーは国内市場を入念に分析して、受注時期を前倒ししなくても生産計画を立てられるようにして欲しい。

全店が全モデルを売る体制にも注意点がある。トヨタに限らず人気車種は売れ行きを大幅に伸ばし、そうでない車種は激しく落ち込むからだ。人気車は生産量を増やせる体制を整えねばならない。

逆にいえば、系列ごとに取り扱い車種を区分した以前の方法は、売れ行きの偏りを抑えるスタビライザーの役割を果たしていた。系列を撤廃すると売れ筋車種が限られ、納期が伸びて販売総数は減る方向に作用する。

それはユーザーから見ても寂しいことだ。とくにトヨタは販売面に強い影響力を持つので、偏りのない売り方をすることを考えるべきである。

記事に関わった人々

  • 渡辺陽一郎

    Yoichiro Watanabe

    1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。買い得グレードを見極める執筆も多く、吉野屋などに入った時も、どのセットメニューが割安か、無意識に計算してしまう。

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