【6速MTに911用キャリパー】ルノー5 ターボ2 25年の紆余曲折とレストア 前編
公開 : 2021.03.06 07:05
結婚式の4週前にエンジンをリビルド
「手に入れた時は若く、エンジニアでしたが知識は充分とはいえませんでした。1995年に結婚したのですが、式へもこのターボ2で向かいました」。といいながら、確かめるように妻を見つめる。
「その6週間前、ルノーのメカニックが車検整備中にエンジンを壊したんです。レブリミッターはないので、ちょっと回転数を高めすぎたようです。エンジンの修理は安くありません。プロにお願いしたら、1万5000ポンドは取られます」
「エンジンに手を出したことはそれまではなく、本を頼ることに。エンジニアとして、一般的な手法です。結婚式の4週間前にエンジンを降ろし、無数の部品と向き合いましたよ」。アレクサンドルが苦笑いする。
「エンジンスタンドが親友になりました。なんとか組み上がり、2度めのトライで無事に始動。余計な部品も一切残らず、良い内容の本でした」
「作業は難しいといわれていますが、正直にいって、サスペンションを外すまでは難しくありません。ドライブトレイン一式も、3時間あれば降ろせます」。ルノー5 ターボ2はミドシップ・レイアウト。エンジンはリアタイヤ直前に載っている。
「子供に恵まれ、2002年にカナダへ引っ越しています。もしクルマも一緒でなければ、その仕事は引き受けなかったでしょう。もちろん、ターボ2も一緒にモントリオールへ引っ越しです」
マルセイユでバラされたターボ2
ヘレンが加える。「カナダではガレージに停まっていることが多かったですね。冬場は氷点下30℃にもなるので、ヒーターを焚いていました。英国へ戻る時も、クルマと一緒です」
英国での暮らしが落ち着いた頃、ターボ2の価値が上昇しないことに疑問を感じた。アレクサンドルが話す。「2005年に、クルマを売ることを考え始めました。取引価格が上昇しなかったことは不思議でした。グループBのクルマなのに」
「多少の整備も必要でしたが、ボディは珍しいパールホワイト。街灯の下ではオレンジ色に見えました。ヤンという男性から連絡があり、友人と一緒にクルマを確認しに来ました」
「彼は買うことを決め、フランスのマルセイユへクルマを送りました。そこでバラされ、ボディはミラノに運ばれたようです」。そのヤン・ゲゼルにとっては、ルノー5との新しい暮らしの始まりだった。
ヤンもまた、幼い頃からルノー5 ターボ2にあこがれていた。妹のサンドリーヌの話では、初めてのクルマもスポーティーな5だったらしい。恐らくゴルディーニだった、とヘレンが話す。
オーナーの変わったターボ2は、社外品のサンルーフが取り外され、穴はスチールで塞がれ、塗装が剥がされた。ルノーで働いていた技術者によって、ジグを使用しながらボディの歪みを整え、スポット溶接が足された。ゆっくりと完璧な状態へ戻るために。