【6速MTに911用キャリパー】ルノー5 ターボ2 25年の紆余曲折とレストア 後編

公開 : 2021.03.06 17:45

貴重な6速クロスMTに911用キャリパー

インタークーラーは大きくなり、Kジェトロニック・インジェクションやマニフォールドも交換してある。リアバンパーの前には、貴重な6速クロスMTが隠れている。メーターも読みやすい。空港で働くエンジニアらしい気遣いだ。

ECUはオメックス社製。ヘッドライニングは、マジックテープで止めてある。ユーチューブで見たらしい。

ルノー5 ターボ2(1984年)
ルノー5 ターボ2(1984年)

ブレーキはカドミウム被膜が施されている。ポルシェ911用のキャリパーが組まれ、ツール・ド・コルス仕様のようにフロントフェンダーはワイド化された。

リアフェンダー前のインテークを覆うスリットは、3Dプリンターで作り直してある。サイドライトの部品一式は、偶然にも見つかったそうだ。

アクセルペダルを踏み込むと、乱れたアイドリングから滑らかに回りだす。すべてがきれいに組み上げられたように、メカニカルでメタリックなノイズが沸き立つ。遠くの見物人が、景色に反響する音源を観察する。

ビルシュタイン社製のダンパーは硬く、荒れた路面で軽くジャンプする。でも、快適に感じる。

すべてが新しく交換されたわけではない。ラジオはアレクサンドルの父が買った古いもの。2灯のスポットライトも、彼らのガレージに眠っていたもの。ヘレンの両親からのプレゼントで、15年前にもらったものだという。

窓に貼られたステッカーも剥がされなかった。自動車税の納税証明は、結婚式の年のモノも残してある。

価格の付けようのない2家族の一員

11ヶ月に及んだルノー5 ターボ2のレストアは、銀婚式に間に合った。手掛けたガレージのアリソンが、記念にリボンを付けてくれた。

「記念として、結婚式に走ったルートを銀婚式の日にもう一度ターボ2で走りました」。とアレクサンドルが振り返る。その時、幸せを大きくする出来事があった。

ルノー5 ターボ2とブラッドリー夫妻
ルノー5 ターボ2とブラッドリー夫妻

「結婚式の時に、素敵なウェディングカーですね、と女の子から声をかけてもらったんです。25年後にちょうど同じ場所で、素敵なクルマですね、と男性から話しかけられたんですよ」

ヘレンが加わる。「結婚式の当日、同じ会場でもう1組のカップルも式を挙げていました。25年後に訪れて、会場の人に写真を撮っていいか尋ねると、その夫婦も写真を取りに来ていたんです」

ルノー5にまつわるアレクサンドルとヤンとの話は、今後も展開がありそうだ。ヤンの妹、サンドリーヌも、クルマとはつながりを持っていたいと考えている。「サンドリーヌはヤンの娘を養子にし、カナダのモントリオールに引っ越したそうです」

ヘレンが打ち明ける。「ヤンは、娘にカナダで教育を受けさせたいと以前から願っていました。サンドリーヌは、その2人の気持ちもターボ2に込められていると話します」

ブラックに仕上げられたルノー5 ターボ2へ、ブラッドリー夫妻以上に価値を見いだせる人はいないだろう。これからも、大切にされ続けるに違いない。

夫妻にとっては、値段の付けようのない特別なクルマだ。かけがえのない、2つの家族の一員でもある。

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