【欧州、水素へ傾く】ジャガー・ランドローバー 水素燃料電池技術の開発促進 1年以内にテスト開始
公開 : 2021.02.18 06:25 更新 : 2022.11.01 08:42
再生可能エネルギーで水素生成
プロジェクト・ゼウスは、2020年に英国政府がCO2排出量削減のためのさまざまな自動車プロジェクトに7300万ポンド(106億円)を投資すると発表した際に明らかにされた。JLRは、Delta Motorsport、Marelli Automotive Systems、UK Battery Industrialisation Centreらと共同で、水素プロジェクトに取り組む。
資金を出した先端推進システム技術センター(APC)によると、JLRが主導するプロジェクトは、「ジャガー・ランドローバーの特性である、長距離走行、牽引、オフロード性能、低温性能などを備えた、排出ガスゼロのプレミアム燃料電池SUVコンセプトを提供する」という。
JLRは2019年3月、水素燃料電池の新チーフとしてラルフ・クラーグを採用した。クラーグは2016年から中国メーカーの長城で燃料電池の研究開発責任者を務めていた。AUTOCARは、JLRが今年初め、さらに多くの水素技術者を採用しようとしていると考えている。
欧州では過去数か月間で「グリーン」な水素製造プロジェクトが複数発表され水素への関心(と投資)が急速に高まっている。
英国政府は最近、「英国の戦略的脱炭素エネルギーキャリアとしての水素開発を支援する」ために、水素諮問委員会を設立した。
現在、世界の水素生産の大部分は、天然ガスから水素を抽出し、改質することで行われている。この方法では、水素は化石燃料から得られるため「ゼロカーボン」とは言えない。
しかし、再生可能な電力(風力発電など)を利用して、海水を電気分解と呼ばれるプロセスによって水素と酸素に「分解」することでも水素を生成することができる。
HISマークイットの調査によると、「グリーン水素の製造コストは2015年から50%低下しており、規模の拡大や製造の標準化などのメリットにより、2025年までにさらに30%削減できる可能性がある」としている。
HISマークイットはまた、水素分解への投資は今後数年間で大規模に拡大するだろうと指摘している。「規模の経済性は、グリーン水素のコスト競争力を高める主な要因となる。2023年に予定されている『Power-to-x』プロジェクトの平均規模は100MWであり、現在稼働中の最大規模のプロジェクトの10倍である」
電動化だけでは環境問題は解決できない
EVバッテリーのパワーと蓄電能力の改善への期待は残しながら、欧州各国の間では急速に考え方が変わってきている。
「欧州では、電動化だけでは多くの国が望むレベルの排出量削減を実現できないことが広く認識されています」と、HISマークイットのキャサリン・ロビンソンは述べている。
欧州連合(EU)は、グリーン水素の普及に向けた大胆な計画を発表した。2024年までに水素生産を脱炭素化し、2030年までに少なくとも40GWの再生可能な水素生産を達成するというものだ。
EUの報告書によると、「クリーンな水素が2050年までに世界のエネルギー需要の24%を満たし、年間売上高は6300億ユーロ(80兆円)に達すると推定される」という。
さらに、「再生可能な電力が安価な地域では、2030年には電気分解装置が化石由来の水素と競合できるようになると予想される」とも述べている。
典型的な水素燃料電池車が約5kgのガスを運ぶとすると、現在のトヨタ・ミライを満タンにするためには、約7.50ユーロ(958円)の製造コストがかかることになる。税金、輸送費、生産者の利益を考慮しても、今後10年の間に再生可能エネルギーを利用した水素発電はコスト競争力があるように見える。
水素が炭素ゼロの燃料として注目されている理由は、他にもいくつかある。
第一に、鉄道や海運といった重量物輸送は、バッテリー技術では実現できないことが明らかになったことが挙げられる。商用車に水素の燃料供給網を提供すれば、もちろん水素乗用車の普及も可能になるだろう。
水素の主な問題点は、生産規模の経済性であり、ミライやヒュンダイ・ネッソのような数少ないFCEVの比較的高い価格に現れている。商用車の利用が増えれば、コストを下げることができるだろう。
第二に、水素はエネルギーの地政学を変える可能性があるという点だ。中国と欧米の間で将来起こりうる対立によって、バッテリーやレアメタルの供給が制限される可能性があり、再生可能な水素は、欧州に重要かつ安定的なグリーンエネルギー供給をもたらすことになる。