ジャガーF-タイプRクーペ・プロトタイプ
公開 : 2014.01.17 23:50 更新 : 2017.05.29 18:38
■どんなクルマ?
カタルーニャ・サーキットにジャガーF-タイプの最強バージョン、Rクーペが姿を現した。5.0ℓのV8スーパーチャージド・エンジンからは溢れんばかりの550psが生み出され、20インチ・タイヤにはジャガーの生産モデルとして初となるカーボン・セラミック・ブレーキがオプション設定されている。
今回試乗できたのは、市販間近のテスト車両というよりもプロトタイプ・モデルに近いものだった。それにバルセロナに出向いたわれわれに許されたのは、このカタルーニャ・サーキットでの走行に限定されていたのである。しかし、それでもほんの数ラップしただけで、このクルマがF-タイプのラインナップにおけるトップ・モデルであることを思い知らされたのだった。
ジャガーの見解としては、F-タイプ Rはポルシェ911と肩を並べる実力を誇り、とりわけ911ターボにさえ対抗できるモデルだという。オールアルミニウム製のボディ・シェルは、先に発売されたソフトトップのロードスターに比べて驚くことに80%も強固になっており、現在手に入る最も剛性が優れたものの一つに数えられる。パワー・ステアリングはわずかにシャープになり、足まわりもやや固められている。しかしジャガーの主張では、剛性が根本的に優れるボディを採用したことで取り回しや乗り心地は著しく改善できたという。
ブレーキは大径化され、標準では前後ともにスチール製のベンチレーテッド・ディスクを装着している。これはオプション設定のカーボン・セラミック・ディスクに変更することも可能で、その価格は組み合わされる20インチ・ホイールが鋳造か鍛造かによって異なり£7,400(約120万円)、または£8,400(約140万円)となる。また、ジャガーとして初めて採用されたトルク・ベクタリング・システムがコーナー内側の荷重のかからないタイヤをブレーキ調整し、コーナリング中のアンダーステア抑制とトラクション改善を実現している。
すでに並外れたテクノロジーを備えているというのに、Rには新型となる電子アクティブ・デファレンシャルと新開発のギアシフト・プログラムが採用され、8段オートマティック・ギアボックスは性能を高めて素早いシフトチェンジができるよう改良された。加えてオプションとしてサーキット走行を望むオーナー向けに公道走行可能なコンチネンタル製の特注ハイグリップ・タイヤが用意されている。
3月下旬になって、このクルマの耳をつんざく爆音が街に響き始めたら、Fタイプの売上のおよそ60%がクーペ・モデルになるとジャガーは予想している。
■どんな感じ?
F-タイプ・クーペに乗り込み完璧なサイズの革巻きステアリングに手を伸ばす。太めのグリップ部を握ったドライバーは、高ぶる気持ちを抑えてこう自分に言い聞かせるだろう。「これは予想以上の代物だ。まさに本格的スポーツカーというやつだ。集中を高めなければ痛い目にあってしまうぞ。」
ピットレーンに大音響をとどろかせながら、ダイナミック・ドライブ・プログラムを最もアグレッシブなモードに設定する。これによりダンパー、ステアリング、ギアボックス、エグゾーストの設定がレベル11になる。
このクルマの優れた性能、いや、むしろ見事と言うべき性能が押し寄せて来るまでそう長い時間を必要としない。モード変更によるパフォーマンス・アップは途方もないもので、全く痛快と言っていいほどだ。例えばコーナーを抜けてスロットルを踏み込むと、トラクション・コントロールが作動しているというのに荒々しいうなりを上げて、4速、時には5速になるまでフル・スロットルを拒もうとするのだ。
グランプリ・サーキットのストレートともなると、多くのロードカーはたとえ最速の部類のものでさえ、多少の力不足を感じさせるものだ。しかし、Rクーペはバルセロナの果てしなく続くメイン・ストレートで心配になるほどの速さを発揮し、まったく惚れ惚れさせられるものだった。ストレートではまぎれもなく911ターボを思わすスピードを味わうことができ、最高速の記録にやきもきするよりもドライバーが真っ先に具合を悪くするだろう。英国のカントリーロードでRクーペがどれほど型破りな走りをするかは、想像ができないというものだ。
このクルマの残りの部分、つまりシャシー、ステアリング、ブレーキ、新型の電子制御デファレンシャルを評価するためには、例によってすべてのシステムを解除する必要がある。そうでなくともサーキットでは解除をするオーナーが出てくるだろう。なぜならこうしなければトラクション・コントロール、トルク・ベクタリングといったシステムが作動して、ウェット路面ともなるとクルマがグラベルに向かって突進しないようあからさまな介入をしてくるのだ。しかし、電子制御に縛られていてはこのクルマの本当に素晴らしい性能を味わうこともできないのだ。ただ、1665kgという車重に550psものパワーを持て余しては、命知らずのドライバーを守るのにこうした安全策が絶対に必要だったのだろう。
それを理解した上で、勇気を振り絞ってすべてのシステムを解除しスロットルペダルを0.5秒早く踏み始めると、おもわず叫び声を上げることになるのだ。なんてこった、Rクーペはとてつもないじゃじゃ馬に変貌するのだった。それでもバランスには優れていて、これまで体験したことのないドライビング・プレジャーを味わえるスポーツカーになるのである。歯を食いしばって、あと少しこのクルマを追い込めるならば、ロードカーでは不可能と思っていた芸当を見せつけてくれよう。
われわれはスチール製とカーボン製のどちらのブレーキも試してみたが、カーボン・セラミック・ブレーキ装着車はジャガー史上これまでにない優れたブレーキングを見せてくれた。制動力という点ではポルシェ911GT3と同じレベルとまで言わないまでも、まさにフィーリングも性能もどれも同等なのである。
■「買い」か?
われわれがテストを許されたサーキット走行について言えば、差し当たりこのクルマがこれまで運転してきたジャガーの中で一番優れている。
端的にいって、あらゆるスポーツカーの中でも、このクルマは最高の一台に属している。決して大げさに言っているのではない。それほどF-タイプRクーペは、走りの限界を極めるに値するクルマなのだ。
(スティーブ・サトクリフ)
ジャガーF-タイプRクーペ・プロトタイプ
価格 | £85,000(1,457万円) |
最高速度 | 300km/h |
0-96km/h加速 | 4.0秒 |
燃費 | 11.4km/ℓ |
CO2排出量 | 259g/km |
乾燥重量 | 1665kg |
エンジン | V型8気筒5000ccスーパーチャージャー |
最高出力 | 550ps/6500rpm |
最大トルク | 69.4kg-m/3500rpm |
ギアボックス | 8速オートマティック |