インフィニティQ50Sハイブリッド

公開 : 2014.01.18 23:55  更新 : 2021.06.24 12:34

■どんなクルマ?

インフィニティQ50Sハイブリッドは、日産のラグジュアリー・ブランドが待ち望んだ欧州の高級車市場への門戸を開くモデルである。

インフィニティは2008年からずっとその入り口の扉を叩いてきた。それなのに、市場においては目立った成果を上げられないでいる。

今回ばかりは、インフィニティの新型車Q50に乗ってみよう。このサルーンは、ガソリン・モデルだけのラインナップだったG37に代わるもので、BMW 3シリーズと同程度の車格である。法人ユーザーには有難いことに4気筒ディーゼル・エンジンがインフィニティとして初めてラインナップに加わっている。

このクルマのセールス・ポイントは、燃焼室内に備わったヒーター・プラグの存在だけではないので覚えておこう。この日本のブランドはQ50の購入層を引きつけるために最新鋭のテクノロジーを詰め込んだのだ。とりわけスマートフォンで操作できる車載エンターテイメント・システムを積極的に楽しむ若い顧客がターゲットなのである。

豪華なグレードのQ50にはデュアル・タッチスクリーン・マルチメディア・システム、LEDヘッドライト、ボーズ製14スピーカー・ステレオ、サラウンドビュー・カメラ、それにアクティブ・セーフティや利便性を向上させるシステム類が備わり、もはや標準的なメルセデスS-クラスと競合できるレベルにあるのだ。

ダイムラーとの共同開発エンジンを搭載する2.2dターボ・ディーゼル・シリーズは、このブランドにとって念願の欧州での売上を大きく伸ばすモデルに成り得る。そのモデルには近いうちにAUTOCARのフル・ロードテストにご登場頂くとして、先立ってインフィニティからは、英国市場へのアピールが期待されるガソリン・エンジンとモーターを備えたトップモデル、Q50Sハイブリッドを借り出すことができた。

■どんな感じ?

高級車市場に新風を吹き込む新しいスタイリングである。デザイン上のリスクにも成りえる魅惑的な曲線を取り入れるためには、ビジネスライクな意匠を犠牲にしてしまうこのクラスにおいて、Q50は非常に高級感があるばかりか、格好も良い素敵なクルマなのである。

それでもマツダ6(日本名:アテンザ)と並べて駐車してしまうと、その途端にアウディA4と比べたときほどの存在感は消えてしまう。インフィニティにとって幸運なのは、同じマーケットで争うのは後者であることだ。

Q50シリーズの上級グレードにのみ設定されるものだが、Q50Sハイブリッドでは優れたスポーツ・サスペンション・システムが備わり、動力は306psを発する3.5ℓV6ガソリンエンジンと、68psを発するモーターから組み合わせて供給される。

見たところパワートレインはインフィニティM35hに採用された後に開発が進んだもので、いまでは速さ、扱いやすさ、燃料効率が調和した圧倒的なパフォーマンスを発揮している。

音もなく滑らかに動き出すと、続いて内燃エンジンの回転が始まりQ50は申し分のない走りで都会の渋滞を抜けていく。モーターが作動することによって、V6エンジンは何度も長時間にわたって休止することができ、トリップ・コンピュータの燃料消費率表示はたやすく14.2km/ℓ以上まで届くのだ。

雑踏の街を抜け出るとその平均値は11.3km/ℓまで落ち込む。数値の落ち込み方は、このクルマの狙いが燃費性能と走りの調和を望むニッチ・マーケットであることを伺わせる。しかし、ドライバーはQ50Sが持つ惜しみない動力性能の片鱗を、これから垣間見るのだ。

マニュアル・モードでシフト操作したときのQ50Sは、癖のない速いクルマなのだ。それに優れたグリップと安定感が備わり、とても扱い易い。シャシーはコーナリング性能を考慮して上手にバランスが取られている。さらに、引き締まったボディコントロールと、的確な減衰設定を得るために入念な作り込みがなされている。そのうえで、乗り心地を損なわない程度のコンプライアンスもしっかり確保されているのだ。

それでもこのクルマはBMW 335iに匹敵するものではない。しかし、安定感と力強さ、それにダイレクトな操作性という点ではアウディS4をわずかに上回っている。高回転までアクセルを踏み込んでもこのV6エンジンは依然として魅力を損なわないのだ。ただ、アクティブ・セーフティ・プログラムがもっと控えめなものだったらとか、発進時のアクセル操作に対してパワートレインが自然な加速をしてくれたらとか、ブレーキング・フィールにもっと一貫性があったらと度々思ってしまう。しかし、こうした欠点は許せないほどのものではないのだ。

Q50の技術的なハイライトであるステア・バイ・ワイヤ式のステアリングについては、期待外れであることが分かった。Q50Sでは標準で搭載され、2.2dではスポーツ・グレードに、それより低いグレードではオプションで搭載できるこのシステムは、ステアリングの感度や重さに多様なセッティングが可能で、ドライバーが望めばシングル・シーターを思わす軽快感とレスポンスを提供するものだ。

ただ、このシステムは多くの人には不要だろう。ハンドリングが最も滑らかで自然なのは、ステアリングを一番軽く、反応を一番遅くしたモードなのだ。反対により重く、反応を速くする設定にしてもQ50の走りがシビアで扱いづらくなるだけなのである。

このシステムの直進付近でのフィーリングは妥当なもので、キープ・レーン・アシストを無効にするならさらに一貫性を高められる。しかし、コーナー外側のタイヤに荷重を掛けるよう激しく攻めても一向にステアリングは軽いままだし、その致命的な軽さのせいでタイヤがグリップしていないように感じてしまうのだ。

路面からのフィードバックはまったく存在しない。もちろん、あるはずもないのだ。しかし、代わりに頼れるデジタル補助機能も存在しない。このクルマでは、バンプ・ステアやキャンバー変化によるハンドルの誤操作によって、道路からクルマが飛び出す心配がなくなった。しかし、先日試乗した標準のパワーステアリング・モデルが良好なセッティングだったことを考えると、どうにもこのステアリングには安定感が欠けているように思えるのだ。

■「買い」か?

インフィニティを考慮に入れるには、理由が他にも必要であるのは最もだろう。しかし、現物給与税(社有車を利用する従業員にかかる英国の税制度)がずっと高額な高級スポーツ・サルーンに比べればこのクルマも悪くはないのである。

社有車がアウディS4の場合、正確に言うと毎月このクルマよりも£130(約2万円)も多く掛かってしまう。この割増し分を考えると、ドイツ製サルーンが社有車に不向きなのは疑いない。

その代わりに、期待できないサスペンションと質素な装備のQ50ターボディーゼル・モデルを選ばなければならないのは、英国の道路上では未だ解決しそうにない頭痛の種である。

しかし、少なくとも、Q50のハイブリッド・モデルだけは明るい兆候として記憶の片隅に残しておくべきだ。

(マット・ソーンダース)

インフィニティQ50Sハイブリッド

価格 £40,000(685万円)
最高速度 250km/h
0-96km/h加速 5.1秒
燃費 16.1km/ℓ
CO2排出量 144g/km
乾燥重量 1825kg
エンジン V型6気筒3498cc+モーター
最高出力 359ps/6800rpm
最大トルク 55.7kg-m/5000rpm
ギアボックス 7速オートマティック

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