【コスト度外視のスポーツカーたち】内燃機関の火が消える前に 技術の粋を味わえる3台 前編
公開 : 2021.03.06 11:05 更新 : 2021.03.10 09:34
性能の進化と走りの深化
インテリアは2017年に刷新されたが、2007年の登場時に見た光景と大差ないといっていいだろう。タッチ式ディスプレイを備えるが、スイッチ類は数多く残された。R35というクルマにとっては重要度の高いディファレンシャルやサスペンション、トラクションコントロールは実体スイッチで調整する。
これまたこのクルマの根幹をなす3.8LのV6ツインターボは、600ps/67.2kg-mというとてつもないパワーを発揮。GT-Rお得意のスタンディングスタートでは、2.8秒で100km/hに到達する。
GT-Rは常に、数字とパフォーマンスそのものをうんぬんするクルマだったが、熟成を重ねてそれ以上のものへと成長したことがわかる。
かつて、R35の発売時に試乗した初期モデルは、あまり感動を呼ぶものではなかった。個人的には、コンピューターを思い起こさせるものだったといえる。力強く速いクルマだが、デジタルデバイスのようだったのだ。間違いなく、ポルシェ911GT3のような、一発で引き付けられるようなものではなかった。
ところが、そこからGT-Rは変わった。いまや、もっと引き込まれるクルマになったのだ。それが生まれによるのか育ちによるのかははっきりしないところだ。日産のエンジニアが施した弛みない改良の成果か、ほかのクルマが以前よりややよそよそしいものになったからかは、なんともいえない。
真価の発揮にはサーキットが必要
いずれにしろ、スターターボタンを押した瞬間、それを味わうことになる。まさしく機械的なサウンドを放つV6の咆哮にだ。
走り出しから、GT-Rは気遣いが必要なクルマだ。長年憧れ続けていたが、無愛想だという評判のロックスターと対面するように、慎重を期して接したくなる。低速ではデフが音を立て、ターボは絶えず笛のように鳴り続ける。GT-Rのレゾン・デートルを、決して忘れさせてはくれない。
事実、路上での身のこなしはおそらく想像通りだ。ハンドルは取られるし、乗り心地の硬さは我慢の限界ギリギリ。軽くもなければ、繊細さもほとんどない。しかし、コーナーを駆け抜けるたびに感じられる、本質的な魅力がある。
ほぼどんなコーナーでも、軽いステアリングでノーズをシャープに押し込めて、走り抜けたら次のことを考える。そのすべてを、GT-Rはものすごい勢いで完了させてしまう。
いかにも知っていると自慢するかのようで恐縮だが、思い出したのはポルシェ962だ。あの往年のレースカーも低速ではひどいものだが、空力が効くや否や、マシン全体が落ち着くのだ。
GT-Rも同じことがいえる。足かせになっている領域を抜け、エンジンとシャシーに多少なりとも息が吹き込まれると、素晴らしく走らせ甲斐のあるところをみせてくれる。当然ながら、それにはサーキットが必要なのが問題だが。