【アルピナD3 Sリムジン試乗】アルピナがディーゼルに仕掛けたマジックに浸る

公開 : 2021.03.19 05:45  更新 : 2021.10.13 15:26

エンジン・レスポンスに脱帽

話をD3 Sに戻すと、エンジンは直列6気筒2992ccのBMW製ターボディーゼルがベース。ここに、アルピナが誇る門外不出の秘技を施すことで最高出力355ps/4000-4200rpm、最大トルク74.4kg-m/1750-2750rpmを達成した。

さらに興味深いことに、48Vのマイルドハイブリッドシステムとインテグレーテッド・スターター・ジェネレーターを搭載。

アルピナD3 Sリムジン
アルピナD3 Sリムジン    神村 聖

減速時にはエネルギー回生をおこなって燃費性能を改善するとともに、素早い加速が必要な場合には電気モーターのトルクでレスポンスを改善することもできる。

なお、ギアボックスはトルコン式8ATで、駆動方式は電子制御式多板クラッチを用いたフルタイム4WDとなる。

走り始めてすぐに感じるのは、やはりディーゼルであることが信じられないほどエンジン・レスポンスが優れていることで、ターボラグもなければパワーのオーバーシュートもなく、狙ったパワーを瞬時にして引き出すことができる。

しかもスロットルペダルを踏み続けている限り、中身がみっしりと詰まったトルク感が味わえるのだ。

回転フィールも素晴らしい。それもただ滑らかなだけでなく、スムーズさのなかにストレート6のかすかな鼓動も感じられる。

おそらく、アルピナのエンジニアたちは内燃機関の魅力を誰よりも深く知っているのだろう。

アルピナ・マジック惜しげもなく

そうしたパワートレインのレスポンスのよさと心地よさを余すところなく引き出してくれるのが、アルピナ・マジックがたっぷりと詰まったそのシャシーである。

先ほどのボーフェンジーペン氏のコメントにもあるように、アルピナの本質はなによりもそのラグジュアリー性にある。したがって乗り心地は快適でなければいけない。無粋なハーシュネスなど、もってのほかである。

アルピナD3 Sリムジン
アルピナD3 Sリムジン    神村 聖

そしてD3 Sを含むアルピナの各モデルは、こうした要件を驚くほど高いレベルで実現している。

たとえば歩道と車道の間にある高さ数cmほどの段差をパーキングスピードで乗り越える際、路面との間で発生したショックは完璧に吸収され、タイヤがゆっくりストロークした様子だけが乗員に伝えられる。

そうした滑らかな乗り心地は車速を問わず味わうことができ、高速走行時に大きなうねりを乗り越えてもフラットな姿勢を崩さず、シュッと1発で上下動をおさめてしまう。

それも試乗車でいえば前後=235/30R20、265/30R20という、例によってホイールに薄いゴムを巻き付けただけのような超低扁平タイヤでこの洗練された乗り心地を実現しているのだから驚くしかない。

いや、それどころかこの超低扁平タイヤこそがアルピナのハンドリングを生み出す最大の鍵というべきもの。

ゴムによるたわみが最小限に抑えられているからハンドリングに遅れやあいまいさが一切なく、理想的ともいえるステアリングレスポンスとリニアリティがどんな状況でも手に入るのだ。

しかも、そのハンドリングは扱いにくくもなければ過剰に敏感に躾けられてもいない。ドライバーがただひたすら自分のイメージどおりに操れる……。

それこそがアルピナのハンドリングの真骨頂なのだ。

価格はリムジンで1078万円。もちろん極めて高価だが、その内容を考えればむしろお買い得といっても間違いではないだろう。

記事に関わった人々

  • 大谷達也

    Tatsuya Otani

    1961年生まれ。大学で工学を学んだのち、順調に電機メーカーの研究所に勤務するも、明確に説明できない理由により、某月刊自動車雑誌の編集部員へと転身。そこで20年を過ごした後、またもや明確に説明できない理由により退職し、フリーランスとなる。それから早10数年、いまも路頭に迷わずに済んでいるのは、慈悲深い関係者の皆さまの思し召しであると感謝の毎日を過ごしている。
  • 神村聖

    Satoshi Kamimura

    1967年生まれ。大阪写真専門学校卒業後、都内のスタジオや個人写真事務所のアシスタントを経て、1994年に独立してフリーランスに。以後、自動車専門誌を中心に活躍中。走るのが大好きで、愛車はトヨタMR2(SW20)/スバル・レヴォーグ2.0GT。趣味はスノーボードと全国のお城を巡る旅をしている。

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