長距離ラリーで強さを見せたSLC 5.0

トランスミッションは、タイプ722と呼ばれた強力な3速AT。パワーステアリングも残されていた。

新しいV8ユニットを搭載した450 SLC 5.0は、キャリアは短く終わったものの、世界ラリー選手権（WRC）のイベントで優勝。WRCで1位を掴んだ初のV8エンジンモデルであり、初のATモデルとして記録されることになる。

ドライバーを務めたのは、アンドリュー・コーワンとビョルン・ワルデゴール、ハンヌ・ミッコラといった腕利きたち。SLCの耐久性も証明した。

1978年9月に開かれたブエルタ・アラ・アメリカ・デルスッドでは、39日間に及ぶ行程で3万kmを走破。まだ標準状態だったSLC 450で、5位入賞を果たした。1979年のコートジボワール・ラリーでも、5600kmを完走。トップ4位を独占する活躍を見せた。

また当時のメルセデス・ベンツがSLCを率いてラリーに挑んだ態勢も、他を圧倒するものがあった。組織力としてもドライバーの報酬としても、相当に高い水準が準備された。

スペアタイヤだけでも500本を用意。ヘリコプターや飛行機を含む述べ35台（機）のサポートチームを投入し、物量作戦としても他を寄せ付けなかった。

ニュージーランドでは、コーワンがリアブレーキを破損させるとチームヘリコプターが新品のアッセンブリーを積んで飛来。20分で組み付け、再び走り出すという荒業を披露している。

一方で距離の短いヨーロッパラリーでは、SLCは振るわなかった。メルセデス・ベンツの豊富な資金や、優秀なエンジニア、エーリッヒ・ワクセンバーガーの技術力を投入しても、結果は付いてこなかった。

必要と思うものは、何でも作ることができた

英国のメルセデス・ベンツUKに勤めていたジョナサン・アシュマンは、350 SLCと450 SLCをベースにしたマシンでラリーを戦った、アマチュア・ラリードライバー。450 SLCでは、1976年のツアー・オブ・ブリテンに参戦している。

ワクセンバーガーが450 SLC 5.0持ち込んだ国際イベントでは、サポートもしている。「彼には無限の予算と権限が与えられているように見えました」。とアシュマンが当時を振り返る。

「彼が必要と思うものは、何でも作ることができました。しかも誰より一生懸命に働き、仕事に熱心。リーダーとして、誰もが尊敬する人物でしたよ。努力を表には出さない人物でしたが」

「独裁的な部分もありましたが、ドライバーの意見は聞き、取り上げることも多かったですね。すべてがベストである必要がありました。サファリラリーでは、ぬかるんだ区間毎にウニモグを用意して備えるほど」

ワークスカーのSLC 5.0には、ロールケージとスキッドプレート、バケットシートだけでなく、南アフリカの高地イベント用に酸素吸入器も搭載されたという。

アシュマンが続ける。「ブレーキには、ABSをフロント側だけオンにするスイッチも設けられました。コーナーでリアタイヤをロックさせ、流すことができるように」

「リアのスタブアクスルは弱点でしたが、トラブルが起きることは稀でした。とても堅牢なクルマで、必要な作業はとても少なかったですね。相当に激しく攻め立てても、マシンは平気だったようです」

この続きは後編にて。

画像　ホモロゲ仕様の450 SLC 5.0　フェラーリ308にも存在したラリーカー　全68枚