【5.0L V8のSLCでラリー】メルセデス・ベンツ450 SLC 5.0 隠れたホモロゲーション・スペシャル 後編
公開 : 2021.03.27 17:45 更新 : 2022.11.01 08:55
ホモロゲ・モデルだという刺激が薄い
「以前は標準の450も運転していて、それは会社からの貸与車両でした。この450 SLC 5.0は、わたしにとっては2台目のSLCになります。5.0Lエンジンのトルクは太く、普通のSLよりはるかに扱いやすいです」
SLCの見た目は月日が経つにつれて、どんどん魅力度を増していると思う。過去にやんちゃなドライバーによってレース仕様へ改造されることもなく、エレガントな容姿は汚れていない。
もっとも、1970年代風のグリーンのベロア内装と肉厚なタイヤ、繊細な木目の張られたインテリアを見る限り、これが軽量なホモロゲーション・モデルだという刺激はない。BMW 3.0 CSLへ乗り込んだ時の気分とは異なる。
SLCは一般道を走る限り、静かでたくましく、快適。ゆったりとしたシートは見た目以上にサポート性が高く、視認性はどの方向にも良好。すぐにスピードを上げて運転できる親しみやすさがある。
しかも、より年代の新しくノイズのうるさいエキゾチックモデルより、速く感じる。硬めのアクセルペダルを踏み込むと、V8エンジンの唸り声が遠くに響き、シルクのように滑らかに速度を上げる。興奮するほどではないが、充足感は高い。
大きいステアリングホイールの感触はしっかりしており、正確にボディを導ける自信が得られる。グリップの限界は、さほど高くはないようだ。もしメルセデス・ベンツがMTを採用していれば、今以上に高い価値が認められていたことだろう。
過去の輝きを知るほど驚く現在の価格
3速ATは、1970年代のクルマとして優れている。レスポンスはシャープで、トルクコンバーターがパワーを無駄にしていない印象を受ける。活発な走りを引き出すように、高回転域まで扱ってくれる。
ブレーキは、特に印象が残らなかった。つまり、よく効くということだ。乗り心地には張りがある。ロードノイズが大きめで、SLという2文字からイメージするほどの高級感は感じられなかった。
このホモロゲーション・スペシャルモデルにも、光り輝いていた時代があった。その過去を振り返えれば、450 SLC 5.0の現在の取引価格が非常に手頃だという事実に驚く。
メルセデス・ベンツが与えたモデル名の、450の5.0という数字がわかりにくいことも、理由かもしれない。R107型SLのモデルライフが長く、見た目の違いが限定的ということも影響しているはず。
SLC全体で見れば、通算6万6000台が製造され、5.0Lエンジンを搭載したSLも少なくない。販売での成功という面で、450 SLC 5.0と500 SLCの功績は大きかったといえる。
最高を求めるメルセデス・ベンツだからこそ、少量生産のホモロゲーション・スペシャルでも親しみやすく実用的で、興奮度の低いモデルに至ったのだろう。しかも最高だからこそ、量産モデルに限りなく近い内容で実現できたのだと思う。
メルセデス・ベンツ450 SLC 5.0(1977-1980年)のスペック
価格:6万2272ドイツマルク(新車時)/3万5000ポンド前後(507万円/現在)
生産台数:1636台
全長:4740mm
全幅:1778mm
全高:1300mm
最高速度:225km/h
0-97km/h加速:8.5秒
燃費:5.3km/L
CO2排出量:−
車両重量:1515kg
パワートレイン:V型8気筒5025cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:243ps/5000rpm
最大トルク:38.3kg-m/3200rpm