【同エンジンのライバル】MGミジェットとトライアンフ・スピットファイア 1.5L 4気筒 前編

公開 : 2021.03.28 07:05

トライアンフ製のエンジンを押し込む

小さなミジェットに、ライバルからの心臓移植が決まる。1275ccの排気量が限度だったAシリーズ・エンジンは、1493ccのトライアンフ・スピットファイアのエンジンへ置き換えられた。

このユニットの起源をたどると、1953年のスタンダード・エイトに搭載されていたオーバーヘッド・バルブ4気筒までさかのぼれる。先進的とはいえなかったが、アメリカの環境規制や安全基準に適合するため、増えた車重を補えるトルクが得られた。

MGミジェット1500(1974-1979年)
MGミジェット1500(1974-1979年)

小さなミジェットのエンジンルームに押し込むため、マニフォールドとサンプユニットを新設計。リアヒンジ・ボンネットの空き空間を埋めた。

一方、スピットファイアのボンネットは、フロントヒンジのクラムシェル。同じエンジンが、もとはヘラルド用だったセパレートシャシーの低い位置に載っている。移植を受けたミジェット1500とは対象的に、ガレージでの整備性は良かった。

そんな黒いバンパーをぶら下げたMk4ミジェットも、現代まで生き抜いている。新車時からワックスが塗り込まれ、大切に保管されてきたらしい。

「まだ新車のように運転できます。それがこのクルマを買った理由です」。と話すのは、オーナーのスティーブ・ブラウン。新鮮な空気感には、不自然さすら感じるほど。1970年代のビニールやプラスチックが放つ、新車時の匂いも残っている。

初期のミジェットが備える繊細なボディラインを覆い隠すように、黒い塊が鼻先に付く。でも黒いボディのおかげで、無骨なバンパーの存在感は控えめ。うまくなじませ、滑らかなフォルムは健在だ。

クルマを着るような感覚

リアのホイールアーチは、初期と同じ四角いラインだと気づく。丸く切り抜いたデザインは1972年から2年間採用されていたが、四角い方がボディ剛性が高まることがわかり、以降は初期のように戻されている。

ミジェットの短いドアを開いて、腰を曲げながら身を沈める。クルマを着るような感覚がある。比較的高い、肩の位置にドア上端があり車内はタイト。ステアリングホイールを握る手を伸ばせば、すべての操作系に触れられる。

トライアンフ・スピットファイア1500(1974-1980年)
トライアンフ・スピットファイア1500(1974-1980年)

そのタイト感は、1.5Lエンジンの移植で大きくなったトランスミッション・トンネルが強くしている。ダッシュボードにはトライアンフ由来のメーターも混在し、フォントが一致していない。

1929年に誕生したMタイプから、50年続いたミジェット。生産終了となった1979年11月の最後の500台であることを示す、小さなプレートがあしらわれている。質素な車内だが、50周年を記念した限定モデルの1台だ。

ダッシュボードの下に手を伸ばし、エンジンを目覚めさせる。アイドリング時のノイズは穏やか。

Aシリーズ・エンジンを搭載したミジェットを運転した経験があれば、一生懸命な加速感を覚えているはず。シフトレバーのストロークは短く、荒れた路面で跳ねるようにボディが動くことも。

ミジェット1500ではその記憶が裏切られ、少し混乱する。いたずらっ子が、成長して少し落ち着いたかのようだ。

この続きは後編にて。

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