【どうしたフィット?】売れないワケ 好調ヤリスとの「差」どこに

公開 : 2021.03.13 05:45  更新 : 2021.10.13 12:04

フィットの長所わかりにくい?

フィットの長所は「心地よさ」である。

スッキリした視界を実現している極細のAピラー、布張りの凝った仕立てのダッシュボードを組みあわせた開放感のあるインテリア、クッションのストローク感があって座り心地のいいシート。

ホンダ・フィット(上)/トヨタ・ヤリス(下)
ホンダフィット(上)/トヨタヤリス(下)    ホンダ/トヨタ

またエンジンが4気筒なのも(3気筒のヤリスに比べて)質感がある。

しかし、それらの良さは実車に触れて試乗すれば確実にわかるのだが、数値と違ってカタログなどではわかりにくいのもまた事実だ。

パッと見た時に良さがわかりにくい。それが、ユーザーアピールとして考えた場合の新型フィットのウィークポイントといえる。

一方で、後席やラゲッジルームの広さや使い勝手はヤリスに対して明確にアドバンテージがあると判断できる。

ところで、両車のラインナップを見るとおもしろいことに気が付く。フィットにはなくてヤリスにある仕様があるのだ。

それは、1.0Lエンジン搭載車や廉価仕様である。

「Bパッケージ」と呼ぶ最もシンプルな仕様は、衝突被害軽減ブレーキをはじめとする先進安全装備まで非搭載なのだから割り切りに驚くばかりだ。そのため、ヤリスはボトムグレードの価格が、フィットの155万7600円に対して139万5000円と安い。

それもあってか、街中を走るクルマを観察すると、ヤリスはレンタカーや会社の営業車でも多く見かけるけれど、フィットはほぼ見かけることがない。そういった違いも販売に差がつく理由となっている。

フィットは身内に強敵が?

しかし、理由はそれだけではない。

フィットは身内にも強敵がいるのだ。軽自動車の「Nボックス」である。それがフィットとヤリスの戦いに大きく影響を与えていると考えられる。

ホンダNボックス
ホンダNボックス

軽自動車とコンパクトカーを同じ土俵に上げても意味がない、と思うかもしれないが、それは現実が見えていない。

いまや新車販売において乗用車の3割以上が軽自動車で、全乗用車での販売トップを走るのがNボックスである。その2020年の販売台数は19万5984台とヤリス・シリーズ合計よりも多いのだ。

そしてNボックスは、普通車からの乗り換えも多く発生している。

フィットのガソリン車の価格帯は155万7600円から197万7800円。対してNボックスの価格帯は142万8900円から209万9900円(価格はいずれもFFモデルでスロープ仕様を除く)。実は価格は大きく変わらない。

そのうえ後席はNボックスのほうが明らかに広く、スライドドア付で乗り降りもしやすい、さらに維持費が安いうえにリセールバリューもいいからトータルコストでは安くつく。

そんな便利でエコノミーなNボックスが、本来であればフィットを買う人たちを奪わないわけがない。

「Nボックスは登録車からの乗り換えも少なくない」

「フィットに乗っていたユーザーがNボックスに乗り換えるケースもかなりある」

実際に、販売現場からもそんな声が聞こえてくる。

フィットの販売がライバルであるヤリスに負けているのは、ヤリスよりも商品として劣っているとかヤリスよりも魅力がないというよりも、身内に手ごわすぎるライバルがいるせいなのだ。

かつてフィットが販売絶好調だった2000年代は、ホンダの軽自動車は絶不調だった。だからフィットにとって軽自動車は脅威ではなかったのだ。

一方で2011年11月にNボックスがデビューし、ホンダの軽自動車が元気になるにつれ、フィットからそちらへ少なくないユーザーが流れてしまったというわけである。

記事に関わった人々

  • 工藤貴宏

    Takahiro Kudo

    1976年生まれ。保育園に入る頃にはクルマが好きで、小学生で自動車雑誌を読み始める。大学の時のアルバイトをきっかけに自動車雑誌編集者となり、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。はじめて買ったクルマはS13型のシルビア、もちろんターボでMT。妻に内緒でスポーツカーを購入する前科2犯。やっぱりバレてそのたびに反省するものの、反省が長く続かないのが悩み。

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