アストン・マーティン・ヴァンキッシュ・ヴォランテ

公開 : 2014.01.27 17:30  更新 : 2017.05.29 18:21

■どんなクルマ?

昨年の夏、青空が広がるカリフォルニアでテストしたアストン・マーティン・ヴァンキッシュ・ヴォランテ。アストンが誇るオープントップ・フラッグシップを今回は英国でテストする。前回と同じ6.0ℓV12エンジン、フルカーボン・ボディ、3層構造ルーフという構成である。ただ残念なことに今回は一つだけ違う点がある。英国の空は、軍艦のような灰色に淀んでいるのだ。

お届けする写真のどんよりとした空をあなどってはいけない。今回のテストカーは優雅に飾りつけられた美しいクルマなのである。米国西海岸の強烈な日差しの下では、このクルマのペイントワークは一層コントラストが引き立っていた。それが、雨やまぬ平日のウォリックシャーにおいては、まったく別のものになってしまうのだ。

あいにくの天気でぱっとしないレッドのカラーリング、それに真っ白のレザーという組み合わせは、こうして軍用道路をトレーラーに挟まれて走るには少々派手なものである。アストンのコンパーチブルにおよそ£200,000(約3,400万円)という貯金をはたくのだから、買い手の自己顕示欲の強さは言わずと知れたものだ。だからここでアドバイスをしておきたい。カラーサンプルであれやこれやと楽しむときは、存分に注意を払おう。ヴォランテのいたるところに取り付けられたエアー・ダクト、吸気ベント、それにチンスポイラーといったものは、派手なカラーリングと組み合わせると、このクルマをデリカシーのないものにしてしまうのだ。

革の内装はより洗練され、キャビンは思ったとおりの優れた環境だ。One-77の意匠を取り入れた新設計のセンタークラスターは、ヴァンテージのものより形状も機能性も大幅に向上している。登録上はこのクルマは2+2モデルであるが、小さなリアシートは一人座ることさえ難しく、座れたとしてもせっかくのフルグレイン本革を楽しむ余裕はない。しかし週末を旅先で過ごす程度の荷物なら、スペースは十分に足りるようだ。アストンが言うには、先代にあたるDBSヴォランテに比べて、ラゲッジ・スペースは50%拡大され収納容量は279ℓまで増えたという。

■どんな感じ?

セレブが好む高価なオーバーサイズ・ウォッチみたいなものだ。時間を見るだけに使うには大きすぎるし、考えた末に手にとっても、重くて毎日身につけるには相応しいものではない。

アストンの精巧な作りの操作系は、ヴォランテにはよく合う重厚な操作感で、触れるのも嫌というほど扱いづらいわけではない。ステアリングはがっしりしていて、ほどよくクイックな反応を示す。アダプティブ・ダンピング・システムは、過剰にならない程度に安定感をもたらすものである。物憂げなこのV12エンジンが、喜んで能力を発揮するのは大きなペダル・ストロークのずっと奥である。自分を見失うほどのスピードは、このエンジンが生み出す573psからは得られない。言ってみれば、あと少しで2トンに達する車重に押さえ込まれているようなのだ。その代わりにスピードが上がるとともに、凄みのある低いうなりが迫力を増し高揚感を高めていくのだ。

ステアリングの「S」スイッチを押してスポーツモードに設定すると、レスポンスと排気音量が高まる。6速タッチトロニックは、ヴァンテージSのもどかしいスポーツシフトの代わりとなるオートマティック・トランスミッションである。スムーズなシフトチェンジを実現しているが、依然として最も感動的なのは、力強い中低速域や、そこからエギゾースト・パイプをうならせてパワーを引き出すときなのである。

こうした振る舞いはクルマの長所を引き立てている。正直に言うとヴァンキッシュはアストンのラインナップの中で最高のクルマとは言えない。このクルマの能力は公道走行では発揮しきれないのだ。しかしV12ヴァンテージSの天真爛漫なほどの限界特性は、この大きなGTでは安定感へと代わっている。

きっとヴォランテの買い手の多くは、そんなことを気にも留めないのだろう。しかし彼らでさえ、新設計のオープンタイプ・ボディシェルの縁に伝わる微振動には異議を唱えるかもしれない。アストンは自身初となるフルカーボン・ボディのモデルを慎重に作り上げたが、ドライバーはぶるぶる振動するサイドミラーを目にしてねじれ剛性の不足を感じ取るだけなのだ。

しかし適切なダンピング機能によって実際面の問題は生じないし、ヴォランテは3層構造ファブリック・ルーフをまとっていながらも、れっきとした実用性があるようにみえるのだ。というのもどんな購入希望者もヴォランテを毎日使いたいと口を揃えるのだ。ただ実際のところは、たいていの人はそんな使い方をしないので、多くの場合は粗探しをしたいだけなのである。

■「買い」か?

恥ずかしながら主観的な問題になるのだが、クルマにつぎ込む£200,000という大金は、最高峰の自動車を手にするための投資であるべきだ。完全無欠の一台など夢物語にしか存在しないのは承知している。しかし、せめて総合的な高性能化を探求したものであるべきだ。その点でヴォランテは、素敵なクルマであるにもかかわらず、味気ないところが目に付くのだ。

このクルマは、アストンのラインナップにおける頂点というよりは、ピンナップ写真に収まるほうが相応しいようだ。ハイパフォーマンスGTカテゴリーが発展性に富んだクラスではないのは認めよう。それに、もしそういうものを期待するなら、十分過ぎるほどのスピードと、額縁に収めるには十分過ぎる華やかさが備わっているのは認めよう。

しかし、究極のアストンを求めるなら、£50,000(約850万円)節約してヴァンテージSを買うべきだ。われわれならそうするだろう。

(ニック・カケット)

アストン・マーティン・ヴァンキッシュ・ヴォランテ

価格 £199,995(3,380万円)
最高速度 295km/h
0-100km/h加速 4.1秒
燃費 6.9km/ℓ
CO2排出量 335g/km
乾燥重量 1844kg
エンジン V型12気筒5935cc
最高出力 565bhp/6750rpm
最大トルク 63.2kg-m/5500rpm
ギアボックス 6速オートマティック

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