【ブランド末期の名作】アルヴィスTC21/100 サルーンとドロップヘッド・クーペ 後編

公開 : 2021.04.04 17:45

精度の高いメカが与える操る喜び

低速で進路を変えるには、スプリングが内蔵された大径のステアリングホイールの力が必要。中央のボスには、ワシが爪で挟む三角形の赤いロゴが入る。初期のオーナーは、この高速性能を当時の道路でどのように楽しんだのだろう。

運転体験でシャープさを感じるのはドロップヘッド・クーペの方。3速からトップにかけて、積極的に速度を上げる。でも、サルーンが明確に劣るわけでもない。

ダークブルーのアルヴィス3リッター TC21/100 スポーツサルーンとグリーンのドロップヘッド・クーペ
ダークブルーのアルヴィス3リッター TC21/100 スポーツサルーンとグリーンのドロップヘッド・クーペ

どちらのクルマも、トップギアに入れたまま安楽に運転できる。普通に運転している限り、3速より下のギアを選ぶ必要はほぼない。

ペダル配置が近く、アクセルペダルは珍しいローラー・タイプ。ドロップヘッド・クーペの方には、後付けでタコメーターが付いている。4000rpmで最高出力を生み出すエンジンを、滑らかに繊細に操れる。

ブレーキペダルのストロークは長い。クラッチペダルは程々に重い。トランスミッション・トンネルから伸びるシフトレバーは重厚感がありつつ正確に動き、操作は面倒に感じない。

当時のアルヴィスの特長を凝縮したかのようだ。精度の高いメカニズムの動きが、操る喜びを与えてくれる。大量生産に傾倒していったライバルモデルは、より労力の少ない操縦性を獲得していく。だがTC21/100は、まだドライバーの関与が多い。

速度が乗っていくと、ステアリングホイールは軽さを増す。コーナーではアンダーステアが顔を出すが、アクセルペダルを踏み込めば簡単に打ち消すこともできる。

誇り高きドライバーのためのクルマ

アルヴィスTC21/100の操縦性は、まとまりがあり素直。ステアリングは正確で、キャスター角の設定も良く、レシオも低くは感じられない。

タイトコーナーでは、ボディロールもなくはない。でも敏捷性は期待以上。フラットさが保たれ、落ち着きもあり、乗り心地が犠牲になってもいない。

アルヴィス3リッター TC21/100 ドロップヘッド・クーペ(1953-1955年)
アルヴィス3リッター TC21/100 ドロップヘッド・クーペ(1953-1955年)

同じエンジンを搭載した、スポーツサルーンとドロップヘッド・クーペというボディ違いの2台のアルヴィス。オーナーが忠誠心を抱くようにブランドを支持していた理由を、理解させるクルマだ。著名人の中にも、アルヴィス・ファンは少なくなかった。

アルヴィスの優れた信頼性、活発な加速力、確かな価値が高く評価されてきた。英国内の長距離移動も難なくこなせたはず。一方で、急速に変化する世界の中で、魅力を保ち続けることは容易ではなかった。

スタンダード・スチール製ボディのベントレーより小さく、アームストロング・シドレーやデイムラーほど時代遅れではなかったアルヴィス。TC21/100は自ら運転することに誇りを抱く、ドライバーのためのクルマだった。

その特長は、今も変わらず宿っている。今回の試乗で、改めて確認することができた。

アルヴィス3リッター TC21/100(1953-1955年)のスペック

価格:1821ポンド(新車時)/6万ポンド以下(900万円/現在)
生産台数:727台(TC21総計)
全長:4623mm
全幅:1676mm
全高:1588mm
最高速度:160km/h
0-97km/h加速:15秒
燃費:7.1km/L
CO2排出量:−
車両重量:1588kg
パワートレイン:直列6気筒2993cc自然吸気
使用燃料:ガソリン
最高出力:101ps/4000rpm
最大トルク:20.9kg-m/2500rpm
ギアボックス:4速マニュアル

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