【独伊パフォーマンスセダン対決】前編 新型M3 vs アルファ&AMG 最高のドライバーズセダンを探せ
公開 : 2021.03.27 11:05 更新 : 2021.07.12 18:47
大幅に変わったM3のメカニズム
では、もしそうでなかったらどうなのか。第6世代となった新型M3コンペティションが、そうしたよき先例を単になぞっただけのものでないのは確かだ。はじめてこのクルマに乗った際、同僚のマット・プライアーは乗り心地のしなやかさを大幅に増した先代M4 GTSのようだと評している。
新規採用したトルクコンバーター式ATは、先代までのDCTよりよくなった。新型の直6ツインターボであるS58型は、中速域の力強さが増し、それでいてよく回り、音も悪くない。
ステアリングは歯切れよく、正確でフィールも十分。あらゆる手段を講じながら、それでも馴染みのあるM3に仕上がっている。それこそBMWの狙い通りだろう。
しかし、それで十分に、Mモデルの定義を、昔ながらの基本に立ち戻らせることができるのか。現代における世界一線級のスーパーセダンたりえるのだろうか。さもなくば、大きく高価になりすぎて、本分を失ってしまっているのだろうか。
最後の質問への答えを探るのには、比較対象が2台必要だった。
相手はV6のアルファとV8のAMG
今回、M3を迎え撃つクルマの1台はわれわれのフェイバリットである小ぶりなスーパーセダン、アルファ・ロメオ ・ジュリア・クアドリフォリオ。もう1台はより大柄な人気モデル、メルセデスAMG E63 Sのフェイスリフト版だ。このV8を積むアウトバーン・エクスプレスがラインナップ落ちしなかったのは、じつに喜ばしい。
フルモデルチェンジしたCクラスには、まだC63 Sを名乗るであろう最強版が設定されていないが、いずれにせよ、ここに加わっても力不足だろう。新型Cクラスは、もはやV8を用意しないという、残念な決定が下されているのだから。
これはM3にとってプラス材料に思える。だが、それによってクラストップを奪還することができるのだろうか。
個人的には、それも十分ありうると思う。否定的な声もあるだろうが、そこはそれぞれが判断すればいい話だ。ソーシャルメディアを見る限りでは、否定的な意見も多いが、それはそれでしかたない。
M4ほど奇抜でないルックス
だが、二日ほど乗ってみた後では、M4よりM3の方がはるかに見栄えのいいクルマだと思えてくる。リアフェンダーに奇妙な造形はみられないし、より自制のきいたデザインで、M4ほど好き嫌いがはっきりすることはなさそうだ。
4シリーズから持ってきたフロントグリルを、それさえなければ見栄えがいいパフォーマンスセダンの顔に張りつけたのは、もちろん理解しがたい判断だ。BMWにいわせれば、Mモデルに必要な冷却性能を得るためということになるのだが、その理由も後付けの言い訳っぽく聞こえる。
ただ、自分でも以前は理解できなかったが、これがなにを目指したクルマなのかわかりはじめてきたように思う。それによって、キドニーグリル問題に関する憤りは、ほんの少しとはいえ穏やかになった。
自分以上に受け入れているひとびとは、この手のアウディやBMWにみられるデザインの傾向をターミネーター的スタイリングなどと呼んでいる。故意にボリュームを増してアグレッシブにした、衝撃と畏怖とでもいった印象をもたらすアプローチだ。好きになれないかもしれないが、それはそれで考えがあってのことなのだろう。
このM3にも、そういったテーマがみて取れるところはある。だが、個人的にはジェームズ・キャメロンとアーノルド・シュワルツェネッガーが組んだ映画より、マイケル・ベイが描いたトランスフォーマーを思い出した。オプティマス・プライムが変形して、BMWになったらこんな感じではないだろうか。