【独伊パフォーマンスセダン対決】後編 多数決を覆すM3の秀逸さ 決め手は別格のドライビング体験
公開 : 2021.03.28 11:05 更新 : 2021.07.12 18:48
AMGの独擅場はアウトバーンのみ
新型M3は、今やかなり大きなクルマになった。全幅をE63 Sと比べると、カーボンファイバーでカバーされたドアミラーを含むと広い。ボディだけなら狭いものの、その差はごくわずかだ。
しかしそれでも、全高や重量は十分に低く、俊敏さやフラットさも満足できるもので、活発さも精確さも抜群。ドライバーを夢中にさせる魅力は、E63 Sとは別次元にある。
より大きく重いE63 Sが、サーキットなら勝負になり、アウトバーンでは完全に凌ぐのも事実だろう。しかしそれも、運転面の魅力全体を評価するなら、ほかの要素ほど価値は見出せない。より小さい2台のほうが明らかに上だ。驚かされるほど違うかもしれない。
M3が本領を発揮するのはサーキットや舗装の滑らかなA級道路で、くぼみのある不整路面のB級道路ではない。とはいえスーパーセダンは、裏道を飛ばすのに向いているクルマでは本来ないのだが。
スポーツカーのようにシャープなジュリア
M3よりはジュリアのほうがバンプを滑らかに乗り越え、車幅がナローに感じられるだろうが、出来のいいホットハッチやライトウェイト2シーターのほうがそれらの点では優るはずだ。
スーパーセダンたるもの、広く、スムースで、速度域の高い道に向いたクルマだ。タイトでバンピーな道を走ると、アルファであっても減衰力が不足しパワーはオーバー気味だと思わされる。
しかもM3とジュリアは、全開で飛ばせるサーキットでの走りもまたみごとなものがある。
ジュリアはなかなかに非凡なクルマだ。コンパクトでモダンなセダンだが、なにかまったく違うものに乗っているかのような物理法則がはたらく。エネルギッシュで軽いタッチと、苦労なしに得られるアジリティは、マツダ・ロードスターを思わせる。
鋭い走りはアルピーヌA110のようだ。ドリフトのしやすさはトヨタ86に近いものがある。それらすべてが、キャビンは広大ではないまでも、ファミリーカーとして及第点にはある4ドアのボディに盛り込まれているのだ。
シャープなだけではないM3
ところがM3は、さらに楽しませてくれる。得るものがより多く、手触りにも運転感覚にも一層引き込まれるものがある。
公道上では、シャシーとパワートレイン、トラクションコントロールの設定をいろいろ試して好みのコンビネーションを探し、ステアリングホイール上にあるメモリースイッチに保存することができる。
保存した設定は、M1/M2と記された明るいオレンジのボタンを押せばすぐに呼び出せる。これほどうまく設定機能を使えて、ドライビング体験をより豊かなものとするのに役立てているパフォーマンスカーはほかにない。
サーキットでは、アルファに近い敏捷性を発揮しつつ、限界領域ギリギリでのボディコントロールやシャシーバランスでは勝っている。スロットルでアジャストできるハンドリングもプログレッシブで申し分ない。ステアリングやガッチリと取り付けられたリアアクスルからは、フィードバックがふんだんに伝わってくる。