【300万円超えの価値】試乗 S660モデューロXバージョンZ サーキットで納得、ホンダスポーツのDNA
公開 : 2021.03.27 18:15 更新 : 2022.01.07 01:56
標準車との違い
“どこでも弱アンダー”は同じでも、車体周りの動きが違う。
標準車の高速コーナリングではピッチやロールの抑えが甘く、微妙に揺らぐ、あるいは煽られるような挙動が残る。
それに応じてスリップアングルも微妙に変化。量的には僅かでありアンダー/オーバーはプラマイ・ゼロなので「悪さ」とまでは言わないが、あまり心地のいいものでもないので、呼応して微妙な舵角修正を入れる。
けっこう面倒、なおかつちょっとスリリングでもある。
これが純正用品フルスペック仕様になると随分と収まる。揺らぎを抑えるような修正舵は不要となる。
速度を乗せて飛び込み定常円限界で、クリップを舐めるようにコーナーのアウト側に孕んでいくような高速コーナーでの安心感とラインコントロール性は段違いである。
バージョンZはさらに収束性とコントロールの精度、高速コーナーでの限界が向上する。
バージョンZ 空力に注目
しかも神経質な反応は皆無。随意でコントロールできる領域が拡大。例えば限界コーナリングでコース幅を使い切るような走り方も容易になる。と記せばいい事尽くめのようだが、そのとおりなのだ。
試乗時のダンパーセッティングはFr.5/Rr.5。
これは純正用品のダンパーセッティングとほぼ等しいので、高速コーナリングでの安定とコントロール性は空力の賜である。
ちなみにバージョンZは、マスク周りおよびエアダム下面処理によるフロントダウンフォースの強化に伴い、リアウイングにガーニーフラップを追加。空力バランスは純正用品と同等でも効果はランクアップしている。
しかも、70km/hくらいでも体感できるほどの効果を発揮。スペックのためではなく実践力アップの設計だ。
「買い」か?
車載Gメーターに記される大凡の全開加速度は3速で0.3G、4速なら0.2~0.1G程度。定常円旋回の横G、全制動の減速Gは1G。
動力性能に対してシャシー性能が圧倒的に上回っている。高出力車と同じコーナリングラインを取ると立ち上がりがスカスカ。動力性能は軽乗用だが、シャシー性能は本格スポーツカー、それがS660モデューロX(バージョンZ)である。
S660の基本操縦特性はNSXに似ている。登場年月からすればNSXが似ているということになるが、タイトターンから高速コーナリングまで振れ幅が少なくコントローラブルな弱アンダーで収める。
標準車なら格の違いを意識させられるが、モデューロXではNSXの原点がS660にあった、と思えるくらい振る舞いが洗練されている。フットワークだけならマイクロNSXと称してもいいくらいだ。
標準車のαに対してモデューロXは約72万円高、バージョンZはその約11万円高。
300万円を超える価格は軽乗用としては破格かもしれないが、良質な本格スポーツカーのハンドリングを気軽に楽しめる。
ホンダが考える操安性をはっきりと示したモデルと言ってもよく、NSXの7分の1弱の価格でホンダスポーツの神髄を味わえると思えば極めてコスパに優れたスポーツカーなのだ。