【ワークス・ラリーマシンの1台】トライアンフTR4 ほぼノーマルで戦った1962年 後編
公開 : 2021.04.18 07:05 更新 : 2022.11.01 08:55
共同出資で買い取ったワークスマシン
4 VCの復活は、トライアンフのコミュニティでは大きな注目を集めた。1994年に情報を知ったアメリカ・ウィスコンシン州のオーナーは、レビントンへ連絡を取り6 VCのレストアを依頼。TR4でヒストリックカー・ラリーに出たいという希望を持っていた。
ニューヨーク州からも電話があり、話を聞くと5 VCのナンバーを付けたTR4オーナーだという。レビントンが飛行機で駆けつけた先で目にしたのは、部分的にレストアされた、バラバラ状態のクルマだった。
残っていた部品を確認していくと、5 VCではなく3 VCだという事実が判明する。レストアという名目で、クルマには少なくないダメージが加えられていた。でも決定的なオリジナル部品が残されていたそうだ。
オーナーは既に少なくない金額をTR4に投じていた。だがレビントンの目には、すべてをやり直す必要があると映った。そこで2人のパートナーと共同で出資し、3 VCを買い取る決断をする。レストア後、完成したTR4は3名が共同オーナーになる。
英国サマセットに戻った3 VCのTR4は、レビントンの手ですべてが復元された。ブラスト加工されたアルミ製のボンネットも含む、フロントフェンダー以外のすべての部品を仕立て直している。
トライアンフTR4のワークスマシンは、すべて現存している。中でもチームリーダーを務めた3 VCが、一番オリジナリティが高いといえる。
レストアから25年が経過した今でも、多くのヒストリックカー・イベントに姿を見せているTR4。美しいボディからは、時代を感じさせる魅力が放たれる。
よく耳に届くウェーバーキャブの吸気音
居心地の良い、タイトなコクピットへ身を滑らせる。スイッチ類が追加されたダッシュボードの手前には、垂直気味に立ったレス・レストン社製のステアリングホイールが伸びている。
助手席側は計器類がいっぱい。ハルダ社ツインマスターのトリップメーターに、時計、マップライト、沢山のスイッチ類がびっしりと並ぶ。
レビントンは自身で設計したバケットシートを装備させているが、シートの間に立つレザー張りの破風板はオリジナルのまま。カーペットがきれいに張り巡らされ、ツーリングも気持ちよく楽しめそうな雰囲気がある。
エンジンや駆動系統は当時のままのワークス仕様。標準のTR4とは比べ物にならないくらい速い。安全のために、3 VCにはロールバーが追加された。扱いにくさはないが、交通渋滞では調子が悪くなるという。
共同オーナーの1人、ガレス・ファースが話す。「ショッピングで近所を走るだけでも幸せを感じます。2016年、50歳の誕生日にアルプス山脈を目指して欧州を旅しました。イタリアのドロミティまで走りましたが、素晴らしいビートでしたよ」
3 VCのトライアンフTR4は、ヒストリックレーサーの多くがそうであるように、快適にリラックスして運転できる。乗り心地はソフトで、ガタつくこともなく、排気音もうるさすぎない。おかげで、ツイン・ウェーバーキャブの吸気音がよく耳に届く。
アルプスの空のように爽やかな、ペールブルーのトライアンフTR4。今も定期的に、欧州各地を巡っているという。