【なぜターボなし?】新型トヨタGR 86/スバルBRZ開発思想 スープラ/WRXどう関係?
公開 : 2021.04.06 05:45 更新 : 2021.10.27 21:44
基本設計がターボを想定していない
1つはメカニズム的な都合だ。
新型もプラットフォームの基本は先代から継承しているが、このプラットフォームはターボの装着を考えていない設計である。
スバルの他モデルに比べてエンジン搭載位置が後方かつ下げた設計で、それは前後重量バランスや重心高としては理想に近づいているのだが、弊害としてタービンの装着スペースがない。
だから物理的にターボ化できないのだ。
「このプラットフォームでターボを装着すると、エンジン搭載位置を上げないといけない。重心も上がるし、ボンネットも高くなってしまう」と開発者はいう。
社外品としてはターボキットが用意されているのだからそれは違うのでは? と考える人もいるかもしれないが、後付けキットとしてアフターマーケットで追加するのと市販車にはじめから搭載するのでは話が違う。
社外品は無理やりスペースを探すこともできるが、市販車では生産性や整備性、そして耐久性などが欠かせない設計要件となるのではそう簡単にはいかないのだ。熱対策も考えないといけない。
さらに、プラットフォーム自体の許容トルクの問題もある。
新型になってプラットフォームはフロント曲げ剛性で約60%、ねじり剛性で約50%という大幅な剛性アップを実現してはいる。
しかし、自然吸気エンジンの搭載を前提としてギリギリまで軽量設計としたプラットフォームは、ターボエンジンの大トルクを許容する強度や耐久性を持ちあわせていない。
ターボを許容するシャシーにしようと思うと、重量増に直結するのだ。
もちろんチューニングカーではターボによる大パワー化も可能だが、それはあくまで車体の耐久性を無視して成り立っている。一時的には持ちこたえるが、ターボの大トルクを長時間にわたって吸収することは車体にとって強い負担に他ならない。
負担をかけ続けることによってストレスとなり、劣化が早まり剛性ダウンを起こしやすいのだ。それはボディを消耗品として片づけられるチューニングカーなら許されても、メーカーが作る生産車としては不適格。
長期的な耐久性の基準を満たせないからだ。そんな基本設計もターボ化を難しくしている。
スープラ/WRXの領域もある
さらに、メカニズム的な理由に加えて商品展開上も86やBRZをターボ化しにくい事情がある。
冒頭の「86にターボを求める声が多い」という多田氏の話には続きがあって、それは「スープラの4気筒モデルはターボつきの86を求める声に応えるつもりで作った。だから86にターボを求める人はぜひこれに乗って欲しい。価格も、86からのステップアップで何とか手が届く範囲にしたつもりだ」というもの。
逆にいえば、もし86にターボ搭載車を用意したら(ターボ装着で価格も上がることもあり)スープラの4気筒モデルとカニバリゼーションが発生してしまう。食いあってしまうのだ。
それを防ぐためには、同じ4気筒の後輪駆動スポーツカーでも86は自然吸気、ターボはスープラと分けておくのがもっともシンプルである。
「でもスープラにはMTがない」という声もあるだろうが、筆者は将来的にスープラの4気筒にはMTが追加されると睨んでいる(基本設計をスープラと共用するBMW Z4にはMTがあるのだからメカニズム的な障害はない)。
それはトヨタ内の話であって、スバルのBRZにはまったく関係の無い話と思うかもしれない。
しかし、スバルにはスバルの事情がある。
スバルにおけるスポーツモデルのポジション関係を見たとき、速さのリーダーとなるのは「WRX」で、BRZはピュアスポーツの走りの喜びを象徴するモデルと位置づけられている。
そういった意味でもWRXはターボでBRZは自然吸気というのは明確にわかりやすいキャラ分けである。
だから両車の差別化として、BRZにターボをつけて大きなパワーを与えるのは商品戦略においては最適とはいえないのだ。