【20年後に振り返る魅力】ルノー・クリオ(ルーテシア)V6へ再試乗 3.0L V6をミドシップ
公開 : 2021.04.20 08:25
ルノーがアルピーヌの名で開発したミドシップ・スポーツは見事な仕上がり。ではハッチバックのリアシートを外し、V6エンジンを押し込んだら? 英国編集部が再試乗しました。
想像を大きく裏切ったクリオV6
筆者の想像を大きく裏切るようなクルマは、それほど多くはない。しかし今から20年前に誕生した、ルノー・クリオ(ルーテシア)V6は、そんな1台だった。
憧れの美女とディナーデートを高級レストランで楽しんで、支払いを終えて店を出ようかという時、パパがイカツイSUVで迎えに来たような、そんな気分になった。期待に胸を膨らませていた内容と、実際の展開との間には大きな隔たりがあった。
退屈な友人と地元のハンバーガーショップで過ごした週末より、失望感は大きい。忘れられない思い出にはなるけれど。
ルノー・クリオV6には、強く期待させるだけの内容があった。タダモノではない見た目のボディに、TWR(トム・ウォーキンショー・レーシング)が開発した3.0L V6エンジンをミドシップ。ル・マンでの優勝を決めたメンバーが関わっていた。
残念な仕上がりになるとは、想像できない。でも実際はそれに近かった。車重は重くなりすぎ、直線加速はルノー・クリオ172より少し速い程度。それ以上に問題だったのが、ハンドリングだった。
限界領域の挙動は、筆者がそれまで試乗したクルマの中で最もトリッキー。フェラーリ348の方が、まだ少しだけテールスライドを楽しめた。うっかり、路肩の生け垣に突っ込む前に。
クリオV6はそれさえ難しかった。コーナーではグリップ頼り。グリップがコースオフか。新車当時、筆者は「駐車場で眺めている状態が最高」と表現した記憶がある。
2年間で再設計を受けたフェイズ2
少なくない批判的な反応が出たことを受けてかどうか、ルノーはすぐに次へ動いた。クリオV6は2年をかけて再設計され、フェイズ2として生まれ変わった。今回ご紹介するクルマも、その1台だ。
サスペンションもまったくの新設計。ダンパーやスプリングだけでなく、動作角などすべてが違う。タイヤは特注品で、ホイールベースも伸ばされていた。少しだけパワーアップし、ギアはショート化されている。
しかしフェイズ2も、当時の評価としては飛び抜けて良いクルマではなかった。目立った速さもなく、インテリアの仕上げもイマイチ。小回りは効かず、ステアリングフィールには違和感があった。
そして、シフトレバーは丁度いい場所よりずっと前方にあった。今回、再試乗して思い出した。
現在の印象は、その頃とはまったく異なる。一部を除いて。そもそも最新のスポーツカーという厳しい見方ではなく、懐かしいクラシックモデルとして振り返っている。多少のことも容認できる。沢山の弱点があっても、命に関わるほどではない。
昔のように、手荒なドライビングスタイルで試そうとは思わない。コーナーに突っ込んでも、サイドウインドウからストレートを見定めたいとも思わない。
歳をとって、心が清められたわけではないはず。何かに追われている時は、周りを見る余裕がなくなる。時を経て余裕のある今なら、見過ごされていた魅力が引き立ってくる。
改めて眺めるルノー・クリオV6 フェイズ2は素晴らしい。同じくらい耳に届くサウンドも素晴らしい。