【ギネス記録のスーパーカー】ジャンケル・テンペスト コルベットC4がベース 生産35台 前編
公開 : 2021.05.01 07:05
F40やディアブロがしのぎを削っていた1990年代初頭、ギネス記録を残したスーパーカーがありました。たった35台が作られたテンペストをご紹介しましょう。
先行車を威嚇するようなフロントグリル
筆者はクルマの感情を理解できないものの、テンペストはきっと怒りっぽい。20年間、ほとんどガレージにしまい込まれてきたからだろうか。ひと目に触れることなく。
許された外出は、オーナーが故郷へ帰った時だけ。今日は生憎の雨模様だったが、溜まったウサを晴らすように威圧的なサウンドを撒き散らしている。春の気配を感じるものの、クルマ好みの天気とはいえないだろう。
仕事柄いろいろなクルマに乗るから、初めてのモデルでも遠慮を感じることはあまりない。だがオーナーのブライアン・マクナリーがテンペストのカギを貸してくれると聞いて、今回はかなり嬉しく感じた。
マクナリーがジャンケル・テンペストを路上へ移動させる。長いノーズが左右に揺れるのを見て、気持ちを引き締めた。左ハンドルのテンペストはかなりワイド。路肩ギリギリに見える。
撮影用車両の後ろを、テンペストが着いてくる。先行車を威嚇するようなフロントグリルが、バックミラーいっぱいに映し出される。思わず童心に帰ってしまう。
映える写真のためにゆっくり減速し、ゾクゾクするようなボディを追い越させる。地平線に向かって突き進むように、姿が小さくなる。
AUTOCARの読者なら、フェラーリF40やジャガーXJ220、ポルシェ959といったスーパーカーは、カタチを見れば認識できると思う。しかし、ロバート・ジャンケルがデザインしたテンペストは、リアに張られたモデル名を見るまでピンと来ないかもしれない。
シボレー・コルベットC4がベース
フロントマスクは特徴的。そういえば、と記憶がよみがえる人もいるはず。スペック上では、0-97km/h加速3.3秒、最高速度320km/h以上と、多くのライバルを打ち破る性能を主張した。確かに当時は、小さくない反響を呼んだ。
ジャンケル・テンペストが作られたのは、たった35台。そのほとんどが英国以外の大富豪のもとへ渡った。英国に残ったのは1台のみ。エキサイティングさでは、他を圧倒する存在感だ。
フォルムを観察すると、シボレー・コルベットC4がベースだろうと予想がつく。テンペストは英国で生まれたが、確かにベース車はアメリカで作られている。
ジャンケル・テンペストがデザインされ、製造されたのは、 ロンドンの南西に位置するウェーブリッジ。取材場所からクルマで1時間程度の、農場に囲まれた小さなワークショップだった。
自動車メーカーのパンサー・ウェストウインズを創業したジャンケルは、事業に失敗。再起を果たし、コーチビルダーとして富裕層向け特装モデルの制作に力を注いだ。狩猟用のシューティングブレークや豪華なヨットなど、幅は広い。
中でも、ベントレーやロールス・ロイスをベースにしたクルマは、注目度も高かった。ジャンケルはクルーのスタッフに顔が利き、正規にロールス・ロイス製エンジンを社外で利用できた唯一の人物だった。
ジャンケルは多彩なモデルを生み出した。ステーションワゴンのベントレー・ヴァルディゼールから、正規モデルのロールス・ロイス・シルバースパー・リムジンまで、6年間に100台以上の特装モデルを手掛けている。