【ギネス記録のスーパーカー】ジャンケル・テンペスト コルベットC4がベース 生産35台 前編
公開 : 2021.05.01 07:05
コルベットが届いたら部品の半分は処分
ベントレー・ターボのエンジンを搭載した、2シーターモデルも存在した。その名も、ゴールドレーベル。ジャンケル・テンペストへ発展する、彼のインスピレーションをかき立てたクルマだといえる。
ゴールドレーベルは、ジャンケルの顧客のニーズを上手に取り入れていた。富裕層がガレージに収めるスーパーカーより、はるかに運転しやすかった。旧市街の狭い道でも、デパートまでの買い物にも問題なく使えた。
最大の課題は驚くほどの価格。1台を仕上げるのに7000時間もの工数を要し、設定された値段は45万ポンド。ハイパワーなベントレーといえども、アラブの大富豪へ二の足を踏ませるのに不足ない金額だった。
ジャンケル・テンペストは、そんなゴールドレーベルの課題に対する回答だ。息を呑むほどのパワーを備えていながら、実用的で市街地も運転できる。それでいて価格も、富豪には合理的と思える数字に抑えられた。
ジャンケルが手掛けたモデルの多くと同様に、テンペストにも既存モデルが存在する。L98型V8エンジンを載せたコルベットC4なら、彼が求める快適なロードマナーとパフォーマンスを両立できると考えたのだろう。
英国へ輸入されたシボレー・コルベットは、テンペストへ生まれ変わるためにジャンケルのワークショップへ運ばれると、主要構造が分解された。「クルマを購入したら、部品の半分は処分します」。とジャンケルが過去に説明している。
長いフロントノーズに膨らんだフェンダー
ボディも容赦なく剥ぎ取られた。グラスファイバーとケブラー樹脂の複合素材で、スリークでマッシブなフォルムを創造。滑らかで長いフロントノーズ、ふくよかに膨らんだフェンダー、落ち着いたリアエンドなどが特徴だろう。
ボディサイドには、タイヤの前後に6か所のエアスクープが開けられ、ボンネットには2か所のNACAダクトが切られている。見た目の凄みを増しているが、ブレーキの冷却やスーパーチャージャーの吸気に用いられる機能的な造形でもある。
ソフトトップはリアデッキに収まるが、折り畳みは手動。大金持ちのプレイボーイが、自らの手を汚して畳む姿は想像しにくいけれど。
ジャンケルはコーチビルダーとして、オーダーメイドも日常の範囲。LT1エンジンにスーパーチャージャーを載せ、304psか375psのテンペストを指定することも可能だったが、さらにパワフルなクルマへの要望にも応えた。
マクナリーがオーナーのテンペストも、その1台。542psを発揮するV8エンジンは、コルベット用のものではない。フロントに押し込まれたのは、アメリカ・ロサンゼルスを拠点とするトラコ社製のユニットだった。
トラコ社を創業したジム・トラバーズとフランク・クーンは風雲児とも評され、レース用エンジンのビルダーとして高い信用を確立していた。トランザム・カマロやマクラーレンM20などに搭載され、勝利に導いている。
この続きは後編にて。