【ギネス記録のスーパーカー】ジャンケル・テンペスト コルベットC4がベース 生産35台 後編
公開 : 2021.05.01 17:45
恐らく年配の女性でも買い物に使える
英国のMIRAテクノロジーパークで、0-97km/h加速3.89秒というギネス記録を刻んだクルマと同じなのだという。グローブボックスには、確かに世界記録の証明書のコピーが入っている。
当時のカタログには、0-97km/hを3.3秒でこなすと記録されていた。それには届いていないものの、フェラーリF40やランボルギーニ・ディアプロ、ポルシェ959など1990年代初頭のスーパーカーに、充分以上の差で勝っている。
アグレッシブな見た目に違わない記録を残した原動力こそ、ハンドメイドのV8エンジン。グラスファイバー・ケブラー製のボディに否定的な意見をするドライバーでも、トラコ社製のエンジンを味わえば、誰もが賛辞を贈るはず。
ピストンが一周するだけで、その特別さがわかる。硬く鍛造され、丁寧に磨き込まれ、堅牢に作られたエンジンのマスターピースだ。アイドリング中でも攻撃的。もちろん、当時のコルベットC4より。
ボンネット内の冷却ファンのうなりと、太く四角いエグゾーストからの排気音が、ドライなエンジンノイズに重なる。最近、新しいクラッチに交換されている。まだ馴染んではいないものの、ペダルの踏みごたえは予想より軽い。
ステアリングホイールも同様に、市街地の速度でも軽く操作できる。運転に慣れているなら、恐らく年配の女性でも買い物に使えるだろう。タイトなバケットシートに、身体が収まれば。
右足へうっかり力を込めると、テンペストは突然性格を変えることは、事前に伝えておいた方が良い。ガソリンを大量に燃やし始める。
最高速度を出さなくても最大限に楽しめる
トルクは太く、ギアを問わず安楽に運転できる。そこからアクセルペダルを踏み込むと、途端に恐ろしいスピードに突入する。濡れた路面では、恐怖心も倍増だ。
当時の試乗記によれば、3速でもフルスロットルでテールをムズがらせたという。水たまりや落ち葉があると、幅315のタイヤは簡単にグリップを失う。アクセルペダルのストロークを、4分の1程度しか使っていなくても。
動的性能を解き放つには、飛行場かドイツのアウトバーンに持ち込むしかない。しかしテンペストは、最高速度を出さなくても最大限に楽しめる。
ドラッグレースの直線でも、夏の午後のショッピングでも、トラコ社製のエンジンはいつも刺激的。当時のスーパーカーに匹敵する能力を備えているが、テンペストの体験の核にあるのは固有の質感と完成度の高いロードスターだという事実がある。
当時の動的性能は、世界トップクラス。豪華なインテリアも、世界トップクラスだった。
ジャンケル・テンペストの勢いを鈍らせたのは、価格だったといえる。12万ポンドは、世界級のスーパーカーとしては安かった。でもコルベットC4としては望外に高かった。LT5エンジンを載せたZR-1が、3万8500ポンドで買えた時代だ。
1991年から1993年に思い切ってテンペストを選んだドライバーたちは、希少な刺激を手に入れることができた。その強刺激の希少価値は、今後も上昇する一方にあることは間違いない。
ジャンケル・テンペスト(1991〜1993年/欧州仕様)のスペック
価格:12万1171ポンド(新車時)/10万ポンド前後(1500万円/現在)
生産台数:35台
全長:4483mm
全幅:1803mm
全高:1186mm
最高速度:321km/h以上
0-97km/h加速:3.3秒
燃費:3.5km/L
CO2排出量:−
車両重量:1482kg
パワートレイン:V型8気筒6358cc/6665ccスーパーチャージャー
使用燃料:ガソリン
最高出力:542ps/5800rpm
最大トルク:83.9kg-m/3800rpm
ギアボックス:6速マニュアル/4速オートマティック