【1960年代のセカンドカー】シトロエン・ビジューとウーズレー・ホーネット 小さな高級車 後編
公開 : 2021.05.02 17:45
1960年代、コンパクトカーに高級の風を吹き込もうとしたビジューとホーネット。異なる個性で売れ行きも別れた2台を、英国編集部が振り返ります。
快適装備は充実していたビジュー
ウーズレー・ホーネットは、ベースのモーリス・ミニ・マイナーより全長が約200mm長く、荷室も広い。反面、ミニのタイムレスなデザインと比べると、時代を感じさせる。テールフィンの名残りや縦長のラジエターグリルは、1950年代初頭の匂いが強い。
車内は、アレック・イシゴニスのミニマリズムに、奇妙な高級感がミックスされている。サイドウインドウはスライド式。でもダッシュボードのメーターパネルには、ブルジョア気取りの小さなウォールナット・パネルがあしらわれる。
ウーズレーの外観は英国の女優、若い頃のジューン・ウィットフィールドと表現されることがある。実際、ホーネットをプレゼントされたという話もある。一方のシトロエンはフランスのシャンソン歌手、ジュリエット・グレコと例えたらいいだろうか。
ビジューの車内を覗くと、DS用のステアリングホイールとPVCでコーティングされたクロス張りのドアパネルがお出迎え。フロアにはカーペットも敷いてある。
エンジンの熱を利用したヒーターは、運転席側と助手席側で個別に強さを調整でき、ドアの灰皿など快適装備は充実。フロントシートは取り外しが可能で、リアシートは折り畳める。トリップレコーダーや車内灯も付いていた。
937 FRXのナンバーを付けたビジューは、1964年1月に製造された1台。「買ったのは1976年。車検に落ち、放置された状態でした」とオーナーのゲイリー・ウィーランが振り返る。
100kg重く64km/hまでの加速に31秒
「ボディはひどい状態で、再塗装が必要でした。これまで30年をかけて、ゆっくりレストアしてきました。運転姿勢は快適とはいえません。広い視界を得るには、後ろにもたれ掛からないといけないんです」
シトロエンは、いざという時の4シーター、と呼んだ。狭い車内も悩みどころだが、ビジュー最大の弱点は動力性能。圧倒的に足りていなかった。
優しそうな見た目ながら、複数に分割成形されたボディと金属製のフロアで構成され、標準の2CVより車重は100kg近く重い。当時のAUTOCARのテストでは80km/hを超える速度に届かず、発進から31.3秒かけて何とか64km/hに達したという。
「斜面は、クルマのパフォーマンスにかなり影響を与えます」。と書き加えられている。
当時のモーター誌でも、ビジューの不満に言及された。「通勤時間帯の、速い交通の流れを妨げずに運転することは難しい。シトロエン・ファンが、同じようにビジューを熱く好きになれるとは考えにくいでしょう」
ウィーランも、彼のビジューが75km/hで走ることは難しいと考えている。「ほかのドライバーは、迷惑に感じることもあるでしょうね。当時の雑誌の内容にはうなずけますよ」
シトロエン製の425cc水平対向2気筒エンジンは耐久性に優れ、メリットもある。「とても良く回ります。これまでの整備は、タペット調整くらいです。ハンドリングは素晴らしく、乗り心地はとても滑らかなんですよ」。ウィーランが笑う。
オーバードライブ付きの3速MTも操作しやすい。1速と2速、バックには遠心クラッチも付いている。