【曲線美な2台のクーペ】ロールス・ロイス・シルバーシャドウMPWとメルセデス・ベンツ280 SE 3.5 前編
公開 : 2021.05.16 07:05
1台の完成に要した時間は4〜6か月
戦後のロールス・ロイスでは、最も見栄えのするダッシュボードも特長。造形はチッペンデールやディープダッシュと呼ばれた、初期の4ドア・シルバーシャドウのものを反映している。
さらにシルバーシャドウMPWでは、炎のような木目のウッドパネルがあしらわれ、コーチビルドであることを誇るように、対象的な淡いクロスが組み合わされている。見事なコーディネートだ。
1台を仕上げるのに、4か月から6か月の時間を要した。コーチビルダーのミュリナー・パークウォードのワークショップがあったロンドン北部ウィルズデンと、ロールス・ロイスのクルー工場へ車体が2度も往復する製造プロセスのおかげだ。
複数の協力企業からボディパネルが提供されており、従来のコーチビルド的な工程ではなく、時代の変化に適応させたプロセスではあった。またロールス・ロイス初のモノコック構造モデルとして、特別仕様を生み出すのに適した方法でもあったのだろう。
1970年、真新しいロールス・ロイス・シルバーシャドウMPWには、1万1600ポンドの値が付いていた。メルセデス・ベンツ280 SEのほぼ倍の値段だ。現在はその価値が逆転している。時代とは不思議なものだ。
今回ご紹介する2台は、ロンドンのクラシック・ディーラー、クラシック・オートモビルズ社が販売しているもの。非常に状態が良く、特長も掴みやすい。
錆びやすいボディと部品の高いメルセデス
2ドアのシルバーシャドウMPWの売値は、5万9500ポンド(892万円)。2021年では、このモデルとしてはかなり評価額が高い。希少なベントレーT1なら、もう少し伸びる可能性はあるが。
深みのあるリーガル・レッドのボディにベージュのレザーが組み合わされ、堂々とした佇まいがある。現在流通している中では、ベストといえる状態だと思う。
クラシック・オートモビルズ社の代表、アンソニー・ベントレーは、この手のクルマの大ファンだという。「ずっとロールス・ロイスと一緒の暮らしをしてきたので、仰々しいクルマには感じません」。と笑う。
メカニズム的には、ロールス・ロイスよりメルセデス・ベンツの方がずっと手はかからない。複雑な高圧ブレーキシステムの維持には、数年ごとに2000ポンド(30万円)から5000ポンド(75万円)のメンテナンスが欠かせない。
それでも、定期的に乗って整備さえ怠らなければ、ロールス・ロイスも長く付き合える。負荷のかかりにくいオールアルミ製のV8エンジンは、より小さく賑やかで、高回転型のメルセデス・ベンツ製ユニットと比べても丈夫さでは負けていない。
反面、ボディのサビと高い部品価格は、280 SEの悩みどころ。特に2ドア専用の部品は高価で、うかつに修理へ出すと心臓麻痺しそうな請求書が返ってくることもある。
ロールス・ロイスの部品も安くはない。しかし新品のほかに、手頃な中古部品が入手できる流通体制が英国では確立している。