【曲線美な2台のクーペ】ロールス・ロイス・シルバーシャドウMPWとメルセデス・ベンツ280 SE 3.5 後編

公開 : 2021.05.16 17:45  更新 : 2022.08.08 07:31

操縦性も乗り心地も優れる280 SE 3.5

直進時の安定性や優れたブレーキは、ドイツ車に引けを取らない。しかし、最初の印象よりコーナリング時の操作量が大きい。ロールス・ロイスで果敢にカーブを攻めるようなドライバーは、いないと思うけれど。

非常に軽く、感触がほとんどないステアリングホイールにも慣れが必要。ハンドリングが良いとはいえないだろう。過度に進路を修正せず、操作を意識しすぎないことを学べば、スムーズに運転できる。

メルセデス・ベンツ280 SE 3.5クーペ(1969-1971年/欧州仕様)
メルセデス・ベンツ280 SE 3.5クーペ(1969-1971年/欧州仕様)

とはいえ、シートはフラットで滑りやすい。シルバーシャドウMPWで積極的にカーブを曲がると、リアシートでのくつろぎを乱してしまう。

市街地でのマナーはこの上ない。軽いステアリングホイールの意味も理解できる。どんな状況でもリラックスして扱えるように設定されている。

もちろんメルセデス・ベンツもスポーツクーペではないが、ボディはロールするものの、アンダーステアは控えめ。ずっと正確にコーナリングできる。

スイングアクスルのサスペンションは、起源を1950年代にまでさかのぼる。280 SE 3.5では改良が重ねられ、グリップ力は格段に高まっていた。手のひらにはタイヤからのメッセージが伝わり、ドライバーにステアリング操作を問いかけてくる。

コーナリング中のアクセルペダル操作も、自然な流れ。正確なフィードバックが返ってくる。乗り心地は、シルバーシャドウMPW並みに見事。路面の凹凸を完全に均すわけではないが、車重を制御しフラットを保とうとしてくれる。

コーチビルド品質と技術力を兼ね備える

メルセデス・ベンツ280 SE 3.5クーペに強く惹かれているなら、筆者は止める理由が見つからない。せいぜい、同じ値段でコーチビルドのロールス・ロイスが2台持てる、という忠告くらいだろう。

それと、3.5LのW108サルーンの方が、ずっと手頃な価格で手に入る。走りは大差なく、ハンサムなデザインも負けていないとは思う。

メルセデス・ベンツ280 SE 3.5クーペ(1969-1971年/欧州仕様)
メルセデス・ベンツ280 SE 3.5クーペ(1969-1971年/欧州仕様)

ロンドンでポロシャツの襟を立てて着るような紳士たちは、1980年代以降、メルセデス・ベンツのクーペに惹かれてきた。視野をもっと広げてはどうだろうと、筆者は思う。そんな人達は、自分の目でロールス・ロイスを見ていないのかもしれない。

英国の文化的な、自己否定の一部ともいえなくはない。英国人なら、あえて選ばない、というような。

しかしシルバーシャドウMPWは、6桁ポンド(1500万円)を超える現代のロールス・ロイス直系の先祖に当たる。洗練されたコーチビルド品質と、高度な技術力を兼ね備えた、過小評価されてきたモデルであることは間違いない。

その事実に向き合う時、ロールス・ロイス・シルバーシャドウMPWの独自性を超えるクルマは見当たらない。筆者には、どちらも手が届く金額ではない。だが、もしどちらかを選ぶとしたら、悩む必要はない。即答でMPWと答えたい。

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