【走り抜ける真紅なポルシェ】ポルシェ911 カレラRS 3.8と928 GTS モデルラインの頂点 前編
公開 : 2021.05.09 07:05
350psの最高出力に50:50の重量配分
ドッグレッグ・パターンを持つゲトラグ社製5速MTの操作も、事前の筋力トレーニングが必要というわけではない。逆に5つの中から選択したゲートが狙った段数なのか、確認したくなる気持ちになる。4速ATよりは、はるかに良い。
トルクチューブを介して、V8エンジンと5速MT、リミテッドスリップ・デフのPSDが結ばれている。アクセルペダルをわずかに動かすだけで、英国オックスフォードシャーの湿った道を流れるように進む。
1990年初頭の排気ガス規制強化に伴い、マイルドなカムに変更されている。それでも、ピストンのストロークを伸ばして排気量を5.4Lへ拡大し、圧縮比を10.4:1に高めることで、不足ないパワーを維持した。
928 GTでは330psだったが、GTSでは350psへ向上。最大トルクは7.0kg-m増しの50.9kg-mを獲得している。トルクのピークは4250rpmと高回転寄りだったが、トルクカーブ全体が持ち上げられている。
低回転域からボッシュ社製の燃料インジェクションが盛んにガソリンを噴射し、レスポンスは鮮明。少し味気ないタコメーターの針をさらに回せば、明らかに力強い加速度でスピードが増していく。
新車当時、AUTOCARの試乗レポートでは0-97km/h加速5.4秒、最高速度270km/hを確認した。928 GTSは、現代のモデルと比べても充分に速い。
フロントが225、リアが255幅の17インチタイヤを履き、前後の重量配分はトランスアクスル・レイアウトで50:50だという。コーナーの途中に不規則な隆起があっても、恐れる必要はない。
想像以上にスポーツカー度が濃い
ボディの大きさは常に意識にあるが、驚くほど感触豊かなステアリングホイールの操舵感で、コーナーを鋭く縫っていける。リトラクタブルのヘッドライトを上げると、巨大なボンネットのケーターハムを運転している気分になる。
路面の起伏が目立つ郊外の道へ出ると、垂直方向の動きが大きくなり、鋭い入力を処理しきれていない様子もある。それでも、ボディロールは良く抑え込まれている。
路面が湿った状態で豊かなトルクをタイヤへ伝えても、GTSはしっかり路面を掴んでくれる。タイトコーナーでいたずら心が顔を出しても、リアが外に膨れるくらい。928が大きなグランドツアラー以上の資質を備えていることは明らかだ。
ポルシェ911より長距離移動に適しているだけではない。想像以上にスポーツカー度が濃く、ジャガーXJ-SやBMW 850iよりハイスピードで運転できる。クラシカルで洗練されたデザインには、似合わない走りかもしれないけれど。
当時の試乗では、大きいロードノイズが批判にあがっていた。だが今の感覚で不快に思えるのは、わだちなどを超えた時にステアリングホイールへ伝わるキックバックくらいだ。
対して、964 カレラRS 3.8はグランドツアラーとはかけ離れた見た目。周囲の人からは、我慢して乗っているように思われそうだ。928も注目を集める存在だが、RS 3.8は一般道を走って良さそうにすら見えない。
ニュルブルクリンク24時間レースを終えて、間違って公道に出てきたレースカーのよう。RS 3.8の張り出したウイングや低い車高、サウンドには誰もが驚くだろう。
この続きは後編にて。