【走り抜ける真紅なポルシェ】ポルシェ911 カレラRS 3.8と928 GTS モデルラインの頂点 後編

公開 : 2021.05.09 17:45

極めて鋭い回頭性や加速力を引き出せる

フロアから伸びるアクセルペダルを深く傾ける。1速での反応は、初期の911オーナーを驚かせるほど精度が高い。RS 3.8には一切のたるみや緩み、不統一さがない。

短く硬いスプリングと引き締まったビルシュタイン社製のダンパー、調整式のアンチロールバーは、滑らかな舗装が前提。でも、乗り心地は許容範囲。ブレーキペダルの踏み心地は硬く、安心感がある。

ポルシェ911 カレラRS 3.8とポルシェ928 GTS
ポルシェ911 カレラRS 3.8とポルシェ928 GTS

カーブに差し掛かり、ステアリングホイールを切り込むと、フェンダーの峰が内側へ食い込むように向きを変える。ステアリングの重さは増していくが、珍しくパワーステアリングのオプションが装備されていて、過度なほどではない。

コミュニケーション力に優れ、極めて鋭いRS 3.8の回頭性や加速力を完璧に引き出せる。車重は1210kgと、驚くほど軽い。カレラRS 3.6と比べて20kgもダイエットしており、特にアルミニウム製のドアが効いている。

エンジンはピストンのストロークを伸ばし、200ccを追加。高圧縮ピストンが与えられ、フラット6の最高出力は300psへ高めてある。しかも、圧倒されるほど積極的に高回転域まで吹け上がる。

アクセルレスポンスに、ファンタスティックと声を漏らしてしまう。吸気と排気のパリッとしたノイズが、ドライバーの気持ちを鼓舞する。

低回転域では928 GTSほどのたくましさはないが、回転上昇は鋭く、気がつけば4000rpmを超えている。7200rpmのレッドゾーンまでの、興奮する領域が始まる。

パワー以上のグリップで恐怖感は少ない

RS 3.8の最高速度は273km/hとうたわれていた。928 GTSより3km/hほど高いだけが、巨大なリアウイングが空気抵抗を生んでいるのだろう。0-97km/h加速は4.9秒と、リアエンジンの特性を活かし0.5秒も短い。

少し気持ちが落ち着くと、荒々しい見た目とは裏腹に、RS 3.8のドライビング体験には恐怖感が少ないことに驚く。ペースを速めていくことも、思いのほか簡単だ。

ポルシェ911 カレラRS 3.8(964型/1993年)
ポルシェ911 カレラRS 3.8(964型/1993年)

リアタイヤの太い911らしく、操縦特性はアンダーステア傾向。RS 3.8は間違いなく速いものの、巨大なウイングが生むダウンフォースと太いタイヤが生むトラクションで、パワーを抑え込みやすい。

RS 3.8の特別な成り立ちを完全に体験するには、サーキットへ持ち込み、さらに高速域へ踏み込まなければ難しい。しかもベスト・ドライビング911の価値は、もはや高すぎる。よほどのマゾでもない限り、限界領域を試すことはないだろう。

このRS 3.8で3万5000kmを走った前オーナーのダリオ・フランキッティですら、パワーを超えるグリップ力で、手に負えなくなる場面はなかったと話している。

「私が望むように運転するには、少し独自性が高すぎました。そこで、デイトナ・スパイダーに乗り換えることにしたんです」

この2台を手に入れるチャンスを夢想するとしても、より現実的なのは928 GTSの方。標準的な928なら、2万ポンド(300万円)くらいから見つけられなくもない。

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