【ヤリスの後席】フルモデルチェンジでヴィッツより狭く 後席捨てたトヨタの目論見
公開 : 2021.05.05 05:45 更新 : 2021.10.13 12:04
フルモデルチェンジで後席が狭小に?
さて、そんなヤリスのハッチバックだが、先代に相当するヴィッツの最終モデルと比べると奇妙なことに気が付く。
後席が狭いのだ。
一般的なフルモデルチェンジでは、先代よりも新型のほうが居住性は向上する。それが世の中の常だ。
しかし、ヤリスに関してはそれがあてはまらず、逆に控えめとなったのだから興味深い。
具体的にいえば、前後席間距離は37mmも短縮され、そのぶん後席足元は狭くなった。またキャビン上部左右方向の絞り込みが増し、頭上も狭まっている。
ストレートにいえば、フルモデルチェンジで後席居住性はダウンしているのだ。
フルモデルチェンジの常識外といえるそんな変化は、いくつかの理由がある。
1つは燃費対策だ。
ヤリスはガソリン車もハイブリッド車も従来の常識を覆す量産車ナンバー1の低燃費を実現しているが、そこには徹底して効率を磨いたパワートレインだけでなくボディの空気性能向上も効いている。
ルーフを低くしたりキャビン上部の絞り込むのは、居住性の犠牲を伴うものの、狭ければ狭いほど空気抵抗を下げられる前面投影面積を狭めるというわけだ。
前席を重視 運転感覚もよくなった
2つめは、前席優先のパッケージングとスポーティな運転感覚。
従来のヴィッツは、後席空間を広げるために前席をできるだけ前に配置し、そのため床に対して着座位置を高めとしていた。
しかし、新型の運転席(基準位置)は、前輪を基準にすると後方へ58mmも下げて、着座高も36mm下げている。
これはスポーティな運転感覚を実現するとともに、重心を下げて運動性能を高める効果がある。ヤリスはハンドリングの評価が高いが、それは低重心化したパッケージングの構築からはじまっているのだ。
また、欧州におけるBセグメントハッチバックの嗜好も影響している。
欧州でヤリスのような小型ハッチバックを買う人の多くは、後席をほぼ使わないので居住性を重視していない。
それよりも「車体が小さくて狭い場所で運転しやすい雰囲気を求める」というのがトヨタの読みだ。
そのため、キャビンが小さく見えるデザインにしたというのである。
競合を退けて欧州カー・オブ・ザ・イヤーを受賞し、2021年1月には欧州市場で販売台数ナンバー1に輝いた新型ヤリスの欧州における実績をみれば、そんなトヨタの読みは当たっていたと考えるのが正解だろう。
後席の居住性を求めるならヤリス・クロスを
そしてもう1つ、「ヤリス・クロス」の存在もヤリスのパッケージングに影響している。
ヤリス・クロスはヤリスと基本メカニズムを共用するクロスオーバーSUVだが、単にSUV化しただけではないのがポイント。
パッケージングを比べるとヤリス・クロスはヤリスよりも車体がひとまわり大きく、後席も荷室もスペースが広いのだ。
つまり、「ヤリスの実用性で足りないなら、室内が広いヤリス・クロスを選んでください」という選択肢にもなっているのである。
プジョー「208」に対する「2008」や、ルノー「ルーテシア」に対する「キャプチャー」がそうであるように、ヤリスに対するヤリス・クロスもまたファミリーユースにマッチしたステーションワゴンのような存在なのだ。
「ヤリスはパーソナルで小さく」、「ヤリス・クロスはファミリーユースにもマッチするよう実用性を追求」と両車がきっちり棲み分けることで、ヤリス(ハッチバック)はコンパクト化を実現できたのだ。
実は、ヤリスもヤリス・クロスも開発責任者をはじめスタッフ構成もほぼ同じチームが開発を担当。
両車はパッケージングの異なる2台を揃えることで、より幅広いユーザーを満足させられるように上手に考えた「チーム戦」の商品企画である。
ところで、トヨタには「アクア」というハイブリッド専用車のコンパクトカーがあり、そのフルモデルチェンジが近いとうわさされている。
現行型アクアは燃費最優先のパッケージングで後席居住性は重視されていない(狭い)が、新型はそこが改善されるというスクープ情報が出回っている。
果たしてそんな新型アクアの後席居住性が、ヤリスとどういう関係になるのか非常に興味深いところだ。
もしかすると、アクアの後席居住性がヤリスをこえることもあり得るのだろうか?