【故ピエヒの夢、思い描く】アウディRS Q3スポーツバック試乗 5気筒の粒立ち

公開 : 2021.05.12 05:45  更新 : 2022.03.24 21:24

雑味なく意外なほど洗練されたRS

そこを差し引いて考えなければならないとはいえ、RS Q3スポーツバックの乗り心地は実に巧くまとめられていた。

高重心のハイパフォーマンス車両という物理的矛盾を諌めるべく金物、つまりバネやスタビのレートはきっちり引き締めざるを得ない。

アウディRS Q3スポーツバック
アウディRS Q3スポーツバック    神村 聖

そこに大径タイヤもあわせれば、とくに低速域では突き上げや左右の揺すりがきつい、或いはバネ下のバタつきが気になる仕上がりになりがちだが、RS Q3スポーツバックはそういう雑味をほぼほぼ消し去っている。

よほど大きく凹凸を跨げば正直にガツンと痛い反応がかえってくるが、上屋の動き方は努めて丸く優しい。

加えてその転がりにはベースモデルとはひと味もふた味も違う精度の高さが感じられる。操舵系から足回り、バネ下に至るまで軸ブレなくクリアに路面をトレースする感触はRS銘柄に相通じる日常的な価値ともいえるだろう。

0-100km/h加速4.5秒という強烈な速さを、パリパリした手応えとは一線を画する気品のあるものたらしめているのは、まさしく5気筒がゆえの爆発の粒立ちによるものだろう。

加えて奏でられる独特の音色もアウディの手掛けるハイパフォーマンスカーのイメージと違和感なくシンクロしている。

コーナリングでは盤石のコンタクト感とともに、頭でっかちなFFべースの4WDという成り立ちを感じさせないニュートラルな回頭性が印象的だ。

後軸の駆動力は物足りなくも出しゃばるでもなく、速度や荷重的に膨らみそうなところを絶妙に綺麗に弧を描く側に働いてくれる。

スタビリティはガッチリ確保しながら低ミューでは恐らく意図的なオーバー側の挙動もしっかりと引き出せる、巧い効きと応答性だと思う。

また、この素直な運動性能に寄与しているのがオイルパンのマグネシウム化を筆頭に材料置換などで著しい軽量化を果たしたエンジンであることにも疑いはない。

もうこの域になれば速い遅いの問題は二の次だろうが、RS Q3スポーツバックはその立ち位置や見た目からすれば、意外なほど洗練されたRS銘柄かもしれない。

コンパクトで利便性は高くとも動的質感は上位車種と遜色のない究極のディリーカーとしてみるもよし。或いはその振る舞いに、かつてピエヒが見た夢を思い描くもよし。クルマ好きにもそうでない人にも、等しく薦められる「いいもの」だと思う。

スペック

価格:863万円
全長×全幅×全高:4505×1855×1555mm
ホイールベース:2680mm
車両重量:1730kg
エンジン:2498cc直5ターボ
最高出力(エンジン):400ps/5850-7000rpm
最大トルク(エンジン):48.9kg-m/1950-5850rpm
トランスミッション:7速オートマティック
燃費(WLTC):9.8km/L
駆動方式:4WD
タイヤサイズ:255/40R20

記事に関わった人々

  • 渡辺敏史

    Toshifumi Watanabe

    1967年生まれ。企画室ネコにて二輪・四輪誌の編集に携わった後、自動車ライターとしてフリーに。車歴の90%以上は中古車で、今までに購入した新車はJA11型スズキ・ジムニー(フルメタルドア)、NHW10型トヨタ・プリウス(人生唯一のミズテン買い)、FD3S型マツダRX-7の3台。現在はそのRX−7と中古の996型ポルシェ911を愛用中。
  • 神村聖

    Satoshi Kamimura

    1967年生まれ。大阪写真専門学校卒業後、都内のスタジオや個人写真事務所のアシスタントを経て、1994年に独立してフリーランスに。以後、自動車専門誌を中心に活躍中。走るのが大好きで、愛車はトヨタMR2(SW20)/スバル・レヴォーグ2.0GT。趣味はスノーボードと全国のお城を巡る旅をしている。

おすすめ記事

 

人気記事