【背景にマツダの苦悩?】マツダMX-30のCM 外国人/海外ロケ地をやめたワケ

公開 : 2021.05.11 05:45  更新 : 2021.10.22 10:07

原点回帰 販売方法やCMすべて見直し

MX-30は、いわば先代CX-5から始まったマツダ車の反省を踏まえて開発された。

ボディサイズはCX-30とほぼ同じで、観音開きのドアを採用したから特徴が分かりにくいが、MX-30は従来のマツダ車とはコンセプトが異なる。

マツダMX-30
マツダMX-30

スポーティな走りの良さではなく、リラックスできる運転感覚と居住性を重視した。

従来のマツダ車では獲得できなかった顧客ニーズに応えるため、エンジンやプラットフォームを共通化しながら、正反対のクルマ造りを目指している。

そこでTV CMも新しい手法で製作された。

MX-30のコンセプトは「わたしらしく生きる」だから、日本のユーザーに向けたCMとして「わたし」を日本のアーティストで表現した。

さらに販売方法も変えている。

MX-30までのマツダ車は、納車を伴う発売日の数か月前から、予約受注をおこなっていた。

早い段階から受注すれば、生産を始める時には、受注台数、売れ筋のグレード/オプション/ボディカラーなどが分かっている。メーカーは生産計画を立てやすく、生産開始と同時に納車も始められる。メーカーの効率の高さを優先させた。

その代わり受注を始める時には、販売店に展示車や試乗車がなく、一部のグレードは動力性能や燃費数値が未定な場合もある。限られた資料だけで購入の判断を迫られるから、ユーザーや販売店のスタッフを困惑させた。

そこでMX-30では、売り方を従来の方法に戻している。

予約受注はおこなったものの、半月程度に抑えられ、発売された時には試乗もできた。

実車を見られない状態でリスクの伴う商談をおこない、予約受注の後は長々と待たされる不満を解消している。

MX-30のCMが日本人を起用したことも、「売り方を元に戻す」一環だ。つまりMX-30は、車両コンセプト、内外装のデザイン、後方視界、乗り心地、受注や発売の方法、CM製作まで、従来の魂動デザインのマツダ車とは異なる原点回帰の方針を打ち出した。

「こうあるべき」にとらわれないMX-30

マツダのCMを見ると、最近ではCX-5やCX-8も変化している。

発売当初は外国人の運転で海外の街中を走るイメージだったが、今は日本人が運転して日本の自動車専用道路を走る映像も使われている。

マツダMX-30
マツダMX-30

先に述べた国内販売の低迷もあり、クルマづくりから販売方法、CMの表現まで、さまざまな部分を見直している。

魂動デザインとスカイアクティブ技術によるマツダ車は魅力的で、その表現方法として外国人と海外ロケの組み合わせも成り立つが、それだけに終始するとすべてが硬直化してしまう。

従来のマツダ車は、内外装のデザインから運転感覚まで、「こうあるべき」という束縛がハナに付いた。

社内的な「こうあるべき」は、どの企業にもあることだが、マツダでは商品、販売、宣伝にまで明らかに滲み出し、ユーザーから見ても堅苦しさを感じさせた。

その結果、マツダ車の売れ行きも低迷している。好きな人にはすべてのマツダ車が歓迎されるが、合わない人は全滅になってしまう。CX-5は嫌いだけどマツダ2は好き、という選択になりにくい。

しかし、MX-30から始まったリラックス路線は、堅苦しさから解放されて自由な雰囲気だ。

従来のカッコ良くてスポーティな路線のほかに、MX-30のコンセプトも加わると、マツダ車を選ぶ楽しさが増して売れ行きも伸びる。それを訴求するCMのバリエーションも、広がりをみせるに違いない。

記事に関わった人々

  • 渡辺陽一郎

    Yoichiro Watanabe

    1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。買い得グレードを見極める執筆も多く、吉野屋などに入った時も、どのセットメニューが割安か、無意識に計算してしまう。

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