【レジェンドのツートーン】ブガッティ・タイプ59 白と黒のグランプリレーサー 後編
公開 : 2021.05.23 17:45 更新 : 2022.08.08 07:31
コンピューターで塗装のシミュレーション
「固有のアイデンティティを与える必要があると考えました。そこで、1938年にイアン・クレイグがドライブした、シャシー番号59124のタイプ59のカラーリングで仕上げては、と提案しました」
「オランダのオーナーは理解のある人物で、そのアイデアを気に入ってくれました。ブガッティの保全活動などを行なうブガッティ・トラストから資料写真の提供を受け、デザイナーに頼んでコンピューターでカラーリングを詰めています」
クレイグのツートンカラーには、いろいろな記録がある。白ではなくクリーム色だったとか、黄色だったとか。だがニル・ジョーンズは最高の効果を求めて、コントラストの強い白を選んだ。
「白黒写真をもとに、いくつかの案をシミュレーション。戦後に塗られていた黒いホイールも試しています。オリジナルのカラーリングがわかるリアの写真がなく、デザイナーのセンスを信じて決めました」
「クレイグのクルマを完全にコピーするつもりはありませんでした。あくまでも、オマージュ。オーナーにいくつか塗装案を見せましたが、一任してくれました」
2020年の夏、シャシーだけでメカニズムのテストを終えると、トゥーラ・プレシジョンはボディの復元を本格化させる。「波型の模様を明確に伝えるため、マスキングをしたうえで、レース&レストアレーション社に塗装を依頼しました」
「オーナーはブレグジット(英国のEU離脱)前にデンマークへクルマを持ち帰りたいと話していて、時間は限られていました」。ボディはきれいに塗り分けられたが、仕上げのラッカー塗装はしていない。
路上で見るタイプ59は凄くゴージャス
「当時風の見た目にするため、塗装後に4000番のサンドペーパーで表面を削っています。それからワックスで磨き、深い光沢を与えてあります」
トゥーラ・プレシジョンは秋までにタイプ59の完成を目指したが、予定は遅れ冬に。気温が下がり、テストドライブが難しい状態になった。「気温が低いとエンジンの温度を保つのが難しく、キャブレターは燃料の供給を止めてしまうんです」
「ブレーキも完全ではありませんでした。でも路上で見るタイプ59は、凄くゴージャスでしたね」。2020年11月にようやく完成。トランスポーターが到着する前、ニル・ジョーンズは凍えるような朝に写真撮影をした。
青と黄色に塗り分けられたブガッティ・オーナーズクラブのバナーの下に、白と黒のタイプ59が停まっている。1938年のプレスコットで見せた、クレイグの果敢な走りを彷彿とさせるようだ。
ニル・ジョーンズの仕上げたブガッティ・タイプ59は、今はデンマークにある。とても幸せなオーナーは、もうすぐ来る夏に類まれなパフォーマンスを楽しめるのを、首を長くして待っていることだろう。
当面はレースイベントなどに出場予定はないが、2022年のビンテージ・モンテレーへの予定は組まれている。コロナウイルスが落ち着けば、トゥーラ・プレシジョンでの整備を受けに、英国へ戻ってくるはずだ。
ニル・ジョーンズがタイプ59でプレスコットの丘を攻める姿を、目にすることができるかもしれない。