【架空のヒロンデルを実写に】ボルボP1800とC70、ジャガーXJ-S、インターセプターIII 後編
公開 : 2021.05.29 17:45
1960年代のイタリア車を彷彿とさせる
一方で、映画監督を務めたフィリップ・ノイスはこう残している。「ボルボの存在感は小さすぎ、ヴァル・キルマーの存在は強すぎました。彼はチャータリスの作品の個性には合いませんでしたね」
悲しくも主演男優はアカデミー賞ではなく、退屈な映画へ送られるゴールデン・ラズベリー賞にノミネート。作品はわれわれの記憶から消えてしまう。
それでも、ハワードのボルボC70に対する気持ちは変わらなかった。8年後、マニュアルのC70 T5クーペを探し出し購入を決めた。「2002年式で生産ライン最後のモデルです。生産終了の5か月ほど前に組み立てられています」
ハワードが説明する。「メカニズム関係は、映画に登場したものと同じ仕様。優れたグランドツアラーを作るべく、ボルボは850をベースに徹底的な再設計を施しました。とてもソリッドで、操縦性もしっかりしています」
「スタイリングはC70最大の魅力。1950年代から1960年代のランチアやアルファ・ロメオのクーペを彷彿とさせます。美しいフォルムを生み出すために、多大な時間と労力が投じられていることがわかります」
「C70は、ボルボ製のクラシックとして独自性を高めていると思いますよ」。ハワードが微笑む。
それぞれに異なる、実写版ヒロンデル。この中でどれが一番心に響くかは、どの世代のサイモン・テンプラーへ共感するかによるだろう。まったく知らない、という読者もいるとは思うが。
P1800のステアリングを握るロジャー・ムーア
ボルボP1800は、英国のTV業界では数少ないアイコン的モデルの1台だ。当時のセットは安っぽいし、フランス・パリという設定の町並みは、英国のハートフォードシャーにしか見えない。
でも、P1800は400km/h以上という最高速度の設定で悪役を追い回した。やはり筆者は、この中ではボルボP1800を選びたくなってしまう。
サイモン・テンプラーを演じたロジャー・ムーアにも、役が良く合っていた。彼の才能は過小評価されることも多いが、見事にテンプラーを自身のモノにしていた。砂漠で派手なアクションを繰り広げる007シリーズより、彼の個性にハマっていたと思う。
実際、1968年に2部構成で再編集された映画版「ザ・フィクション・メーカー」では、優れたTVドラマの要素がすべて盛り込まれていた。エドウィン・アストリーのBGMとともに、映像が筆者の記憶から呼び起こされる。
女優のジャスティン・ロードやシルビア・シムズが素敵な情景を描く。その中で、ロジャー・ムーアはボルボP1800のステアリングを、誇らしげに握っているのだった。