セアト・レオン・クプラ265
公開 : 2014.02.20 20:25 更新 : 2017.05.29 18:44
■どんなクルマ?
先代のセアト・レオン・クプラRというのは、愛着を感じずにはいられないクルマだった。実のところ、洗練さに欠け、見た目も悪く、インテリアもよくなかった。しかし、そうした細かいところはフォルクスワーゲン・ゴルフGTIやシロッコRに任せ、スペイン生まれのそのクルマは率直に速さを求めた手ごろな価格のモデルだった。それも5ドアだけの設定という極めて実用重視のモデルだったのだ。
新型はいくぶん状況が異なっている。まず第一に、Rがラインナップされていないのだ。これは来月のジュネーブ・ショーでAWD仕様のものを発表するために取ってあるのだろう。一方で、テストカーを見てお分かりの通り3ドア・モデルが設定されている。そのベース車両はレオンSCである。これはデュアル・インジェクションと過給機を備えたフォルクスワーゲン・グループの最新型2.0ℓガソリンエンジンを搭載するモデルで、最高出力が265psとなっている。5ドア・モデルは同じエンジンを使用するのだが、セアトの歴代最高出力となる280ps仕様に変更されている。
クプラはすべてのモデルが0-100km/h加速で6秒未満を達成できる前輪駆動モデルである。それだけにとどまらず、35.7kg-mもの最大トルクを1750rpmから発生するだけあって、フロントにはクプラとして初の電気制御式ディファレンシャル・ロックが全モデルに装備される。
電動式パワーステアリングは操舵に合わせてレスポンスの鋭さが高まるよう可変ギアレシオが採用されている。また、トーションバーに別れを告げ、足まわりは4輪独立懸架式の低められたサスペンションになり、アジャスタブル・ダンパーが装備される。トランスミッションは、標準では6速マニュアルで、オプションとして6速DSGを選択することができる。
いずれにせよ重要なポイントは、標準モデルから引き継いだよりワイドになったボディである。気付かなかった方もいるだろうか、(そういう人もすぐに気付くだろうが)レオンの外観はいくぶん洗練度が増したのだ。車幅が広げられ、ノーズ部のグリルが大きくなっている。加えてホイールのサイズも大きくなったが、それに伴う乗り心地の悪化はうまく抑えている。280の方にはエアロ・パーツと華やかな19インチ・ホイールが与えられ、訴求力を高めることに貢献している。
インテリアの装飾は控えめだがここでも大仕事が行われた。当然ながら多くの装備が取り付けられ、さらに手で触ったときの質感も向上している。アルカンターラ生地のスポーツシートが奢られ、希望すればレザータイプに変更することもできる。ダッシュボードはゴルフには問題のないところでもクプラでは軋むかもしれないが、人間工学的にはほぼ理想的なものになった。
オプションには立派なバケットシートも設定されている。しかしどうしたわけか、リストに並ぶのは夏以降となる。
■どんな感じ?
驚くことでもないが、このクルマは大きな進化を遂げた。ベースモデルのレオンでもそうだったが、固い乗り味とこもったエンジン音が圧巻だった先代モデルの記憶はすぐに消えてしまう。その代わり、同じ仲間でも価格が上のランクの7代目フォルクスワーゲン・ゴルフGTIが思い出される。そして、それがラテンの出世頭によって鼻をへし折られる姿が目に浮かぶのだ
単にフロントが発するパワーの差だけではなく、1300kgと言われている車両重量によって、クプラはGTIより間違いなく速いのだ。クプラは現行ゴルフRのEA888エンジンをデチューンして搭載している。このエンジンは、メリハリはないが素晴らしいパワーを出す妥協のないエンジンで、ゴルフ・シリーズの典型的フィーリングを味わうことができる。扱いやすく十分に走りを楽しめるエンジンは、しびれるような熱さはないが、レオンをホットハッチバックのメインストリームに導き出し、アッパークラスへと飛躍させたのだ。
スペック表を見ればたいていのことが分かるが、いくら見たところで分からないものもある。クプラについて言えば、エントリーグレードの乗り味がそれに当てはまる。18インチホイールにはコンチネンタルのスポーツコンタクト5がセットになる。この組み合わせでクプラの265は、ゴルフよりもずっと熱い流れるような走りをするのだ。
実際のところ、走りやすいことで知られるスペインの高速道路を、265はまるで滑るように走って行くのだ。まったく動こうとしないダウンサスのおかしなフィーリングを手なずけながら、一方で快適な乗り味のためにスプリングのリバウンドは丁寧に減衰されていく。この特性はDCC(アダプティブ・シャシー・コントロール)に物を言わせて容赦のないセッティングを設定しても失われることがない。
英国のような扱いに困る路面状況では、このクルマの優れた快適性は消えてしまうかもしれない。しかし、ここ南モンセラートでは、レオンはフォーカスにとっての脅威となるのだ。265ならどんな条件下でも間違いはないだろう。280の方は19インチホイールが最高級の走りを少しずつ毒していく。決してこのクルマの走りを台無しにするのではないが、走りのしなやかさがそのしわよせを受けている。その分はエンジンのパワーで埋め合わせるというのだ。
幸いなことにブリヂストンのポテンザはコーナリングに好影響をもたらしている。扁平化とグリップの向上により、265に比べるとコーナーの入り口から出口までを、力でねじ伏せるようにして突き進むのだ。
どこまでもスムーズなスペインの道を駆け抜け、山の中腹へと向かう。時代遅れのDSGのことは忘れて、味わい深い6段マニュアルを駆使すれば、280の方が限界付近において速いのは明白なのである。
それでは現実に戻って、われわれの母国、英国を蝕むうっ血気味の道路網について考えてみよう。ここではしなやかさに勝る265の方が、走っていてなにかと気分のいいクルマだろう。特にトラクションが不足しそうな場所では、新開発のデフの効果をはっきり感じられるはずだ。
これはパフォーマンス・パッケージ仕様のゴルフから取り入れたのだが、働き者のエンジンを持つクプラのためにチューニングが施されている。GTIがストレートに向かってスピードが落ちてしまうところでも、何がなんでもノーズの向きを変えるというのがこの装置の目的だ。さらに優れている点は、これによりこれまで目立っていたトルクステアがほとんど見られなくなったことだ。
スペインの山の背を走る道に戻ってくると、こうしたものごとは正直なところほとんど魅力を失ってしまう。MQBプラットフォームに取り付ると何もかもがこうなるのだが、レオンのシャシーには決定的な躍動感が不足しているのだ。走りの正確さは問題ないし、グリップも問題ない。バランスやパンチのことを言っているのでもない。まるでフォルクスワーゲンにパワフルな前輪駆動モデルがまた一台加わったみたいだと言いたいのだ。そのクルマでならどんな道でも安全にスピーディーに走れるのだが、心を掴むフィーリングがまったく不足しているのである。単にデフからもっとトルクを引き出すということではなく、本物の走りへの適応能力が不足しているのだ。
レオンはなんとかフロントを旋回させて、力強い前進を続けようとする。しかしコーナリング中の荷重移動を押さえ込むことができないのだ。このため、クルマとのコラボレーションを深めるためにゆっくりとスロットルを踏み込むのはいいが、スロットルを緩めるのは大きな誤りだ。また、迫力に乏しいリアエンドのスタイリングは、相変わらずのままである。無理もないことだし、全く良識のある判断である。しかしフォード・フォーカスSTとルノー・メガーヌRSなら、セアトでは決して得られないものが手に入るのは、こうした違いが理由にもなっているのだ。
しかし、こうした欠点は総体的な視点から見直すことが容易にできる。セアトはハードコア・ハッチバックを好むエンスージアストを顧客にしようとは考えていないのである。セアトが関心を持っているのは、デイリーユースにも耐える手ごろな価格のクルマを求める活動的な購買層なのだ。それにはむしろ、14.2km/ℓ以上にもなる燃料消費率と160g/km未満というCO2排出量の方が大きな役割を果たすのだ。こうしたクルマを作ることに関しては、セアトは見事な仕事振りを見せたと言える。
■「買い」か?
とどめの言葉をここで言ってしまおう。ついこの前までは”買い”だったが、今は強く “買い” とは言えない。なぜならセアトは知恵を働かせて(または、高いモデルを買わせようとする恥知らずな試みのために)、お得な265の5ドア・モデルは英国には導入すべきでないと判断したのだ。そのクルマならレオンの快適性とスピードと実用性を最良の形で組み合わせたものだったのに。
これゆえ、皆さんは一番お奨めのものを選ぶのではなく、いくぶん狭い方の(そして恐らくそれほど素敵なプロポーションではない)3ドア・モデルと、いくぶん快適性に欠ける5ドアの280との間で頭を悩まさなければならないのだ。
セアトはより多くの購入希望者が後者を選ぶと主張している。われわれは必ずしも彼らを思いとどまらせようとはしない。しかし、レオンに乗るために£27,240(約450万円)というのはシリアスな金額である。それにもかかわらずセアトは、ここに来て再び”安く買うことこそが魅力”のクルマ、クプラをわざわざ念入りに作りこんで市場に投入したのである。
(ニック・カケット)
セアト・レオン・クプラ265
価格 | £27,240(約450万円) |
最高速度 | 250km/h |
0-100km/h加速 | 5.9秒 |
燃費 | 15.5km/ℓ |
CO2排出量 | 150g/km |
乾燥重量 | 1502kg |
エンジン | 直列4気筒1984ccターボ |
最高出力 | 265ps/6000rpm |
最大トルク | 35.7kg-m/1750-5300rpm |
ギアボックス | 6速マニュアル |