【量産メーカーの英断】日産GT-RxトヨタGRヤリスxアルピーヌA110 比較試乗で祝う 前編
公開 : 2021.05.29 09:45
何年も積み重ねてきた改良による熟成
GT-Rといえば動的性能の数字に注目が集まってきたが、改めて確かめると、しっかり熟成されてきたことがわかる。発表されたてのR35型GT-Rを初めて運転した時、どこか冷たいクルマのように感じたのを筆者は覚えている。
まるで淡白なコンピューターのようだった。最新のデジタル機器のように速いものの、ポルシェ911 GT3並みに惹き込まれる体験ではなかった。
それから10年以上が過ぎ、クルマとの一体感が増している。日産の技術者が、何年も積み重ねてきた改良の結果なのだろう。同時に最新モデルの多くがリモート感を強めていることも、そう感じる理由かもしれない。
GT-R ニスモのシートに腰を下ろし、エンジンのスタートボタンを押す。その瞬間からGT-Rの堪能が始まる。V6ツインターボは、とてもメカニカルなサウンドを聞かせてくる。
発進させる前から、リスペクトの気持ちが湧いてくる。昔から大ファンだったロックスターのように、少し近づきにくい。低速域ではデフからのメカノイズと、ターボの唸りが常に一緒だ。
その意味を一瞬たりとも忘れさせない。ドライバーの想像通りにGT-Rは立ち振る舞う。乗り心地は硬く、我慢できるギリギリ。車重は軽くなく繊細とはいえない。コーナー1つを曲がるだけで、素性の魅力が伝わってくる。
どんなカーブが迫っても、ステアリングホイールを軽く回すだけでフロントノーズは鋭く切れ込んでいく。GT-Rは簡単にクリアし、次に考えるのは次に迫るカーブのこと。ひたすらに、勢いよく駆けていく。
GT-R ニスモとは対象的なA110
以前に経験したことのあるグループCカー、ポルシェ962を思い出してしまった。低速域では扱いにくいものの、速度が増してエアロパーツが機能し始めると、落ち着きが一気に増したものだ。
R35型GT-R ニスモも、遠からずな雰囲気がある。ただ激しくプッシュし、エンジンとシャシーに充分な仕事をさせればいい。感動するほどの充足感が得られる。サーキットが必要な領域であることが、問題ではあるのだけれど。
日産GT-R ニスモからアルピーヌA110へ乗り換えると、その好対照ぶりに目をみはる。A110は、幸せな気持ちのまま思い切り運転できる。市街地でも、デュアルクラッチATと柔らかなシャシーが、うまく機能してくれる。
郊外の開けた道へ出れば、すべてが見事に調和する。素晴らしい体験だ。A110は、ドライビング体験の魅力が集まっている。優れたスポーツカーを作るのに、巨大なパワーや太いタイヤは不必要だと気付かさせてくれる。
速度域に関係なく幸福という点では、かつてのポルシェのような味わいだ。GT-Rが少し歳をとった憧れのロックスターなら、A110はいつも楽しい親友といったところ。
1114kgと軽い車重が、素晴らしい効果を生んでいる。プラットフォームは、コストの掛かったA110専用。フロントのダブルウイッシュボーン式サスペンションが、燃料タンクを囲むように強固に取り付けられている。
エンジンを支えるリアセクションも同様。スポーツカーの基本に忠実なだけでなく、アルピーヌという歴史にも忠実であるように仕上げられている。
この続きは後編にて。