BMW X5 eDrive
公開 : 2014.02.22 22:30 更新 : 2017.05.29 17:59
■どんなクルマ?
BMWの新型車X5 eDriveの登場は、非常に大きな意味合いを持っている。
英国での販売開始が2015年に予定されているこのクルマは、BMWのレギュラー・ラインナップにおける初のプラグイン・ハイブリッド・モデルなのである。また、その後追加されるガソリンエンジンとバッテリーを備えたモデルレンジの展望を占う1台でもあるのだ。BMWはパフォーマンスと経済性の引き上げに家庭用電源が活用できるモデルを他にも開発しており、その中にはつい先日テスト風景がキャッチされたばかりの3シリーズeDriveサルーンという未発表モデルも含まれている。
昨年のフランクフルト・ショーでコンセプトカーとして発表されたX5 eDriveは、最近導入されたEVモデルのシティ・カーi3と、それに続くスポーツカーi8の開発で培ったノウハウを活用している。
X5 eDriveは既存のモデルをベースにしているものの、高度なドライブトレインの開発は”i”ブランドのモデルと並行して行われた。このため、キーとなるコンポーネント部分、つまり、内燃エンジン、モーター、ギアボックス、4WDシステムを制御する電子制御パワー・ユニットについては両者で共用することができたのだ。
近年ドイツのカーメーカーではモデルレンジを越えたエンジンの採用が行われている。X5 eDriveも同様で、既存のN20直噴ガソリンエンジンを特別に改良して搭載している。2.0ℓターボチャージド4気筒ユニットは、広いエンジンルームのずっと後方に縦置きでマウントされ、最高出力245ps、最大トルク35.7kg-mを発生する。
内燃エンジンに組み合わせられるのは、ギアボックス・ハウジング内部にマウントされた円盤状のモーターである。このモーターユニットは、BMWと長年のパートナーシップ関係にあるZF社が供給するもので、最高出力95ps、それにi8と同じ最大トルク25.4kg-mを発生する。同社は新型のSUVに標準搭載される8段オートマティックの開発も担当している。
X5 eDriveに関する詳細をBMWは現在のところ明らかにしていない。しかし、システムの総合出力は274ps以上、総合トルクは45.9kg-m以上になると示唆している。参考までに現行のX5 xDrive35iに搭載される3.0ℓ直列6気筒ガソリン・ターボエンジンのスペックを見ておくと、最高出力は306ps、最大トルクは40.8kg-mとなっている。
モーターはトランクのフロア下に搭載されたバッテリーから電力の供給を受ける。これに対応するためトランクのフロアを他のX5に比べて20mm高くしている。リチウムイオン・ユニットは、サムソンとボッシュが設立した合弁会社SBリモーティブ社から供給されるバッテリーセルを採用し、その電力量は9.0kWhを上回るという。充電は一般的な240Vのコンセントと400Vのウォールボックスのどちらからでも可能である。充電時にはドライバー側のフロント・フェンダー上にあるフラップを開き、その中のソケットに電源ケーブルを接続する。
■どんな感じ?
まったくもって素晴らしい。高性能なドライブトレインにより、走り出した瞬間からモーターとバッテリーの重量増加分が相殺されているのを実感できる。
バッテリーが十分充電されている場合は、静止状態からの発進をモーターだけで行う。しかし、出だしの加速力を高めるためにガソリンエンジンが加わるまでは、スロットルを踏み込んでも大した反応を感じられない。それでも全体を通して考えると、X5 eDriveは駆け出しと中間加速のパフォーマンスが十分満足できる水準にある。
2300kg近い重量にもかかわらず、このクルマの加速は、2145kgのX5 xDrive35iでフル加速したような興奮を味わえる。0-100km/h加速タイムが7.0秒未満というのも頷けるのだ。電気機械式マルチプレート・クラッチ、電子制御トルク・ベクタリング・システム、フルタイム4WD、この3つが組み合わさることで、テストに使用した開発初期段階のプロトタイプでもトラクションの力強さは圧倒的なものだった。
一定の速度で巡航していると、高いパフォーマンスを備えるクルマにもかかわらず、X5 eDriveの乗員が無理を強いられないことに驚く。限られた時間のテストだったが、駆動系のノイズがよく抑えられていて、ギアボックスの動きが滑らかなことを思うと、長距離ドライブには向いているという感触を得た。
エネルギーマネジメント・システムの働きによってドライバーはエコプロ、コンフォート、スポーツの3種類のドライビング・モードを選択することができる。
エコプロ・モードでは、モーターはハイブリッド走行への積極的な関与を行わず、走りのパフォーマンスを強化する機能も働きが制限される。一方で、ドライバーがスロットルから足を離すと惰性走行モードが作動する。これは内燃エンジンをギアボックスから切り離すことで、機械的な抵抗を減少させ推進力を維持しようというものだ。初期設定のコンフォート・モードでは、パフォーマンスの強化を図るためにモーターが必要に応じて関与してくる。また、スロットルから足を浮かしたときには、再生エネルギーを回収するために回復機能が作動する。スポーツ・モードではモーターと内燃エンジンの両方が絶えず積極的な関与を続ける。回復機能が、減速時にさらなるエネルギー回収を求めて制動力を強めるのもスポーツ・モードの特徴だ。
また、センター・コンソールに配置されたボタンによって、純粋な電気走行モードに切り替えることもできる。その場合の航続距離はごく限られたものだ。BMWの話では、このゼロ・エミッション条件での航続距離は、バッテリーがフル充電、最高速度を120km/hに制限した状態で最長29kmということだ。これはそれほど長い距離には思えない。しかしBMWの内部調査では、現在X5を所有しているオーナーは、外出時の行き先の80%が、往復距離にして29km未満にとどまるものだという。これは、将来オーナーになる見込みがある大多数の人にとって、十分以上の性能であることを意味している。
電気走行モードでのX5 eDriveはこの上なく滑らかで、目の覚めるようなスピードで走る。静粛性にも優れているため、かえってタイヤのロードノイズが耳障りに感じる。しかし全体的な作り込みは素晴らしい水準にある。このモーターは控えめなパワーとトルクであるにもかかわらず、大きなボディを前へ進める力は賞賛すべきものである。静止状態からの駆け出しは力強さにあふれ、都市部の交通環境では柔軟性のある走りを実現している。
■「買い」か?
この新型モデルに備わる優れた経済性に好印象をもったなら”買い”である。BMWが主張するシステム総合の燃料消費率は “26.3km/ℓ以上”、CO2排出量が “90g/km未満” となっている。しかしながら実際の交通環境を考慮すると、その数値は15.9km/ℓと150g/kmというところだろう。
プラグイン・ハイブリッド機能をこのクルマに装備することは、限られた距離とはいえゼロ・エミッション走行が可能になり、X5のニューモデルに新たな魅力をもたらすことになる。このクルマに関心を持った人たち、とくにロンドン中心部の渋滞税に代表されるCO2関連の課金に悩まされるドライバーには、こうした環境性能は大きなセールスポイントになるだろう。さらに、これまでの大型SUVでは考えられない経済性を実現できるので、そうした最新技術を自分でも使いたいという人には目が離せない存在だ。
しかし、X5 eDriveには電力走行モード以外の魅力も存在する。このクルマは速さがあり、洗練されていて、効率の高いハイブリッド走行が可能なうえに、新型X5のガソリンやディーゼルのモデルと比較しても、五感が呼び覚まされるようなドライビングを味わえるのだ。このクルマの価格設定はまだ明らかにされていない。それでもBMWの話をまとめると、£50,555(約850万円)のX5 xDrive40dに近い価格設定が予想される。
(グレッグ・ケーブル)
BMW X5 eDrive
価格 | NA |
最高速度 | 230km/h |
0-100km/h加速 | 7.0秒以下 |
燃費 | 26.3km/ℓ |
CO2排出量 | 90g/km以下 |
乾燥重量 | 2300kg |
エンジン | 直列4気筒1997ccターボ + モーター |
最高出力 | 245ps/5000rpm + 95ps |
最大トルク | 35.7kg-m/1250rpm + 25.4kg-m |
ギアボックス | 8速オートマティック |