【大きいことは良いことだ】ジャガーMk VIIとMk Xを振り返る 英国のビックサルーン 後編
公開 : 2021.06.05 17:45
一定の価値になればサイズは問題にならない
「売る意味がなかったからでしょう。いい値段は付きませんでした。毎年車検は通し、道を走れる状態は保っていたようですが」
20年くらい前までは、大きなボディのおかげで価値が上がらずにいた。「英国の場合、ほとんどのガレージには収まりません。でも最近は、最高の状態なら4万ポンド(600万円)位の値段で取引されています」
「中には、10万ポンド(1500万円)を投じてレストアされたものも。一定の価値に到達すれば、ボディサイズは問題にならなくなります。特にグッドウッドに出るようなクラシックカーなら。どちらも、その価値まで上昇したといえます」
Mk Xは、間違いなく魅力的なMk VII Mより人当たりがよく上品だ。重心高も低く、よりエレガントに走る。ダッシュボードはロジカルにレイアウトされ、全方向で視界良好。安心して運転できそうに思える。
パワーステアリングが付き、ブレーキペダルは軽く効きは強力。1970年代のクルマのように、シームレスに加速していく。Mk VII Mも現代の交通の流れに問題なくついていけるが、Mk Xなら追い越せる余裕すらある。
160km/hで巡航走行することも、Mk X 4.2なら難しくないだろう。その速度で高速道路を突っ走っていても、リアシートはピクニックテーブルを出してメモが書けるほど穏やかで快適。足もと空間は広く、乗り心地は適度に張りがあり滑らかだ。
Mk Xも世界最高のサルーンだった
速度に関係なく、運転の労力も少ない。パワーステアリングも軽すぎない。ステアリングへ伝わる感触は、直進へ戻る時にぼやけた印象がある。でも入力に対しての反応は正確。自信を持って大きなボディを操れる。
サスペンションも優れており、Mk VIIだけでなく、現代のモデルをかすめさせるほど乗り心地は上質。グリップ力も高い。
しかし、Mk Xの売れ行きはウイリアム・ライオンズを失望させた。マスコミからも一般ユーザーからも、高い賛辞を集められない初のジャガーになった。肥大化したステータスシンボルのように見られ、手頃な価格も前向きには受け止められなかった。
大きなボディと快適な乗り心地、パワーステアリングなどの装備は、北米のドライバーには愛された。それでも、ライオンズが期待した数には届かなかった。当初はラジエター故障が相次いだことも、大きな影を落とした。
Mk VII以上に、Mk Xにはライバルとの熾烈な戦いも待っていた。ひと回り小さい、独立懸架式サスペンションを備えたジャガーSタイプの登場も、影響を与えたはず。
そんなジャガーMk Xも誕生から60年。還暦を迎えた。Mk VIIの後継モデルとして、世界最高のサルーンだったことは間違いないだろう。
時間が過ぎ、過去の評価も歴史の一部になったようだ。Mk Xは、常に筆者にとってお気に入りのジャガーの1つ。肥大化したステータスシンボルには、好きになれる要素も多く含まれているのかもしれない。