【消えゆく国産ステーションワゴン】レヴォーグ/カローラ・ツーリング売れているのに 背景は?

公開 : 2021.05.26 05:45  更新 : 2021.10.22 10:07

ミニバンに押され、SUVに押され……

ワゴンの車種数と売れ行きが大幅に下がった1番の理由は、日本と、北米を中心にした海外市場で需要を失ったからだ。

かつて日本には、前述のとおりワゴンが豊富に用意されていた。

トヨタ・ウィッシュ(初代)
トヨタ・ウィッシュ(初代)    トヨタ

ただし1990年代の後半になると、背の高いボディによって、車内がワゴンよりも大幅に広いミニバンが続々と登場してきた。

とくに当時のミニバンは、ホンダステップワゴンのような全高が1800mmを超えるスライドドアを備えた車種だけではない。ホンダ・ストリーム、トヨタ・ウィッシュ、トヨタ・イプサムのような背の低いミニバンもあった。

これらのルーフを低く抑えたミニバンは、全高が1700mm以下でスライドドアも装着されず、外観は背の高いワゴンという印象だ。

そのためにワゴンから、ストリーム、ウィッシュ、イプサムなどに乗り替えるユーザーが増えた。

これらの車種は、背が低くミニバンらしさが乏しいことから最終的には廃止されたが、1990年代から2000年代には、ワゴンの需要を吸収して売れ行きを伸ばした。

また、日本車が多く販売される北米などの海外市場では、SUVの人気が高まった。

これに伴ってワゴンの売れ行きが下がり、海外でも需要を失ったから、日本のメーカーはワゴンをつくらなくなった。

ワゴンの需要がなくなったわけではない……

ワゴンの減少を販売店ではどのように見ているのか。

日産の販売店に尋ねると、以下のように返答された。

日産セレナ
日産セレナ    日産

「今はワゴンの新車を売っていないが、古いステージアやウイングロードに乗っているお客さまは少なくない」

「販売店としては、セレナやエクストレイルへの乗り替えも提案しているが、断られることも多い。背の高いボディによる高重心の運転感覚が嫌いだったり、立体駐車場の利用性が悪化するからだ」

「とくにマンションに住むお客さまの多くは、立体駐車場を使うから、背の高いミニバンやSUVは所有できない。セダンも車種が減り、ノートのようなコンパクトカーでは荷室が狭い。そうなると所有できるカテゴリーはワゴンだけなので、復活させたら喜ばれる」

国産ワゴンユーザーは輸入車ワゴンに流れる

マンションに設置された一般的な立体駐車場は、利用可能な車両の全高を1550mm以下に設定していることが多い。

そうなるとセレナやエクストレイルは所有できない。そこで天井を低めに抑えたクルマで、なおかつセダンやハッチバックよりも広い荷室が欲しいとすれば、選べるのはワゴンに絞られるわけだ。

アウディA4アバント
アウディA4アバント    前田惠介

ところが前述のとおり国産ワゴンには設計の古い車種が多い。

そのために需要が比較的新しいレヴォーグカローラ・ツーリングに集中した。

ワゴンの車種数は世界的に減ったが、欧州は唯一の例外だ。メルセデス・ベンツBMWアウディなどには今でもワゴンが多い。

そこでアウディの販売店に、ワゴンのニーズについて尋ねた。

「アウディは伝統的にワゴンのアバントが人気で、今はSUVも増えたが、A4アバントは好調に売れている。とくにスポーツモデルのRS4は、アバントのみの設定でセダンにはない。古くなった国産ワゴンを下取りに出して、アバントを購入するお客さまもいる」

欧州は日常的に高速走行の機会があるから、低重心で荷室の広いワゴンを好むユーザーが多い。

スバルがワゴンのカテゴリーにこだわる理由も、走行安定性と積載性の両立にある。

各メーカーともに、ワゴンを1車種程度は用意するとユーザーから喜ばれるだろう。

とくにマンションに住んでいて立体駐車場を使う場合、背の高いクルマは所有しにくい。

今はセダンもLサイズが中心で、軽自動車まで背の高い車種が増えたから、選べるカテゴリーはコンパクトカーだけになってしまう。切実な問題だ。

記事に関わった人々

  • 前田惠介

    Keisuke Maeda

    1962年生まれ。はじめて買ったクルマは、ジムニーSJ30F。自動車メーカーのカタログを撮影する会社に5年間勤務。スタジオ撮影のノウハウを会得後独立。自動車関連の撮影のほか、現在、湘南で地元密着型の写真館を営業中。今の愛車はスズキ・ジムニー(JB23)
  • 渡辺陽一郎

    Yoichiro Watanabe

    1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆様にケガをさせない、損をさせないこと」を重視して、ユーザーの立場から、問題提起のある執筆を心掛けている。買い得グレードを見極める執筆も多く、吉野屋などに入った時も、どのセットメニューが割安か、無意識に計算してしまう。

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