【セナと過ごした24時間】伝説の男、アイルトン・セナ 愛車同乗・サーキット試走 AUTOCAR回想録
公開 : 2021.06.05 06:05
穏やかで優雅な手の動き
プロフェッショナルなセナは、新しいサーキットをよく知らずして、古いサーキットと比較することはしない。しかし、改修が必要であることには同意している。
「旧サーキットを走るのは好きだったが、危険だった。あまりのスピードに安全性を感じられなかった」
それでも当時、世界最速のGPコースであったシルバーストンに思い出がないわけではなく、新サーキットは旧サーキットの基準に達していないとも語っている。
「シルバーストンの特徴は、その滑らかな路面にあったけど、今日の数周の走行では、非常にバンピーであることがわかった」
セナが闘志を燃やしたのは、ピットを通過するときだった。セナが本気を出すときは、その姿を見ればすぐにわかる。話すのをやめ、顔をまっすぐ前に向け、それまで輝いていた目が燃えている。
眺めているうちに、彼の非凡さを理解するヒントになるものが見えるかもしれないと思っていた。しかし、鋼鉄のような厳しい表情を除けば、何の参考にもならなかった。彼はドライビング・インストラクターに言われたように、腕を少し曲げてシートに座っている。バックレストはわたしがセットしたままで、シートをペダルに近づけて、足が腕と同じように曲がっている。教科書通りのやり方で、「10時10分」でハンドルを握っている。
世界中の誰とも異なる点は、コーナーを通過するときのクルマのコントロール方法だ。たとえ、目をつぶったまま助手席に座り、ドライバーの手と足の動きだけに意識を集中したとしても、間違いなくセナが隣にいることを実感できるだろう。
セナにとって、ステアリングとスロットルは合わせて1つの操作であると言っても過言ではない。どちらか片方だけを操作することはない。コプスを出て、おかしなほど横に滑っているときでさえ、彼の手はとても穏やかで優雅で、まるで遅いように思えた。
NSXはマニュアルで乗りたい
ポルトガルに1台、ブラジルにもう1台注文していると言われなくても、セナがNSXを愛していることは明らかだろう。
しかし、このNSXは英国で最初にパワーステアリングとオートマチック・トランスミッションを搭載した1台で、ハンガーストレートを200km/hで疾走しているとき、セナがマニュアル操作でシフトチェンジをするとV6がレブリミッターにあたり悲鳴を上げる。彼は不安を口にする。
「パワーステアリングはこのクルマに合っているけど、オートマチック・トランスミッションはもっと個人的なもので、このクルマには向いていないと思う。他のクルマや乗り物ではオートマチックが好きだけど、NSXではマニュアル・トランスミッションがいいんだよ」
そう話しながら彼はギアを3速に戻し、その手をシフトレバーに残したままNSXをストウブに向けた。片手でハンドルを握り、寸分の狂いもないラインを描く。130km/hでスライドし、ホンダの背後には白煙の壁ができた。
これが、アイルトン・セナと過ごした午後のひとときであり、できることならボトルに詰めておきたい瞬間だ。もちろん、セナには残りの周回の全コーナーで驚かされ続けたが、セナと他の一般的なドライバーとの違いをはっきりと認識させるものではなかった。
目の当たりにしなければ信じないようなことをこなせるだけではない。彼はそれ以上だ。彼は努力なしにやり遂げてしまう。
●夕方、M40(高速道路)
ロンドンへ向かうセナのホンダ・レジェンドがスピード違反で捕まった。彼のスピードに関する報道は様々だ。一説には210km/hとも言われている。セナは注意で済んだ。