【マットグレーのクーペ】アルファ・ロメオ6C-2500 スポーツ トロッシ伯爵の特注 後編

公開 : 2021.06.26 17:45

スクーデリア・フェラーリのボスも務めた、カルロ・トロッシのために作られたアルファ・ロメオ6C-2500。マットグレーの1台をご紹介します。

トロッシがステアリングを握ったアルファ

text:Mick Walsh(ミック・ウォルシュ)
photo:James Mann(ジェームズ・マン)
translation:Kenji Nakajima(中嶋健治)

 
カルロ・フェリーチェ・トロッシ伯爵は、留学した経緯から英国好きとして知られ、ディック・シーマンなど英国人ドライバーとの交友も深かった。またクルマに限らず、飛行機やスピードボートなど、速さだけでなく技術面にも強い関心を抱いていた。

第二次大戦中はレジスタンスとして、密かに活動していたこともわかっている。6C-2500でチラシや地下新聞、ラジオなどを運んだのかもしれない。

アルファ・ロメオ6C-2500 スポーツ(1942年)
アルファ・ロメオ6C-2500 スポーツ(1942年)

晩年は左目の奥に激痛を常に感じ、安静を余儀なくされた。末期的な症状だと理解し、より人生に集中することができたのだろう。そんなトロッシがステアリングホイールを握った、アルファ・ロメオが目前にある。

彼が好んだタバコの香りも、レーシングギアを収納したケースも、今は残っていない。彼の人生の後半が大変だったこと、レースとビジネスの両立の難しさなど、多くのことが頭をよぎる。

思いは尽きないが、現在の6C-2500のオーナーは、ベルギーに住むラウル・サン・ジョルジ。ツーリングボディの6Cをドライブして、トロッシが暮らしたビエッラを訪ねたいと以前から考えている。

1945年に、城の跳ね上げ橋の前で撮影された写真を再現したいという。「トロッシの親族が招待してくれ、2020年に訪れる予定でした。ですが、ほかの多くのことと同様に旅行も延期です」

「次にイタリアへ向かう時は、必ずアルファ・ロメオも一緒と決めています。最も気に入っている1台で、売るつもりはありません。初めてレストアに関わったクルマでもあり、家族も愛着を感じているようです。特に、娘のキアラが」

油脂類が温まると本領が見え始める

「彼女が12歳の時、昼食中にクラシックカーのディーラーから電話がありました。テーブルに戻って、6C-2500に素晴らしい買い取りの提案があったと話すと、キアラは目つきを変えて強く話したんです」

「あのクルマを売ったら、わたしはあなたの娘でいるつもりはない、とね。彼女の強い気持ちは今でも変わりません」。笑顔を浮かべるジョルジ。

アルファ・ロメオ6C-2500 スポーツと現オーナーのラウル・サン・ジョルジ
アルファ・ロメオ6C-2500 スポーツと現オーナーのラウル・サン・ジョルジ

素晴らしいクルマである以上、素晴らしい体験をするべきだと彼は考えている。トロッシのアルファ・ロメオで、思い出深い自動車旅行を何度も経験している。「レストアを終えて2万2000kmくらい走っています。信頼性はとても高いです」

スポーツカーではないですが、40kmくらい走って油脂類が温まると本領が見え始めます。ステアリングホイールはダイレクト。初期型のフロアシフトで、内容としてはベストでしょうね」

これまで40年以上、ジョルジはイタリアを拠点とする専門家とともに、クルマのレストアへ関わってきた。現在は7台のクルマが進行中だという。その中には、アルファ・ロメオ6C-2500 ピニンファリーナ・ドロップヘッドも含まれている。

まだ引退するつもりはない。メルセデス・ベンツ540K ストリームライナーを、オフィシャルのミュージアム用に修復させた経験もある。最近は8C-2900 ホエールのボディワークを、オランダのラウマン自動車博物館のために取り次いだ。

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