【マットグレーのクーペ】アルファ・ロメオ6C-2500 スポーツ トロッシ伯爵の特注 後編
公開 : 2021.06.26 17:45
美しい見た目と質感の高さに心が奪われた
「アルファは、常に心では一緒。人生の地図を示してくれる存在でもあります」。と話すジョルジだが、6C-2500へ対する情熱に火が付いたのは30年ほど前だった。
「ロンドンを訪ねた時、レーシングドライバーだったグレゴール・フィスケンのガレージで、6C-2500 ツーリングクーペを目にしました。それまではジャガーやヒーレーなど英国車のファンでしたが、美しいスタイリングと質感の高さに心が奪われました」
「6Cこそ自分にピッタリのクルマだと確信したんです。長距離に適したクルマで、目立って速いわけではありませんが、車重が軽くトルクは太い。ハンドリングも非常に手なづけやすい。細部に至るまで技術面も見事なんです」
ジョルジがこのトロッシの6C-2500を発見した時、彼はクルマが有する歴史をまったく知らなかったという。「友人のファビオ・カリガリスがアルファ・ロメオの専門ガレージを1989年に立ち上げる際、仕上がる前の6C-2500を購入したんです」
「ファビオがレストアするという条件で。部品は揃っていましたが、リビルドは必要でした。クルマの番号は刻印が残っていましたが、カブリオレにするため、屋根は切り取られていました」
ジョルジは修復を進める中で、トロッシ伯爵との関係性を発見する。「シャシー番号は915 510。イタリア自動車クラブの記録と照合すると、カルロ・フェリーチェ・トロッシが最初のオーナーだと残っていました」
戦前のシャシーに目立たないボディ色
「ナンバーはVC 14726で、ボディカラーはグレー。トロッシの親族へ連絡を取ると、修復の資料として貴重な写真を提供してくれました」
カリガリスがミラノのワークショップで作業を進める間、ジョルジはボディを手掛けたカロッツェリア・トゥーリング社のアンデルローニに連絡。彼も、特別なボディのことを覚えていたという。
「1942年、アンデルローニは父親からカロッツェリアを受け継いだばかりで、彼の初めてのプロジェクトだったそうです。ヘッドライトの追加など、トロッシの要求を覚えていました」
「夜間走行に備えて、明るいカレロ社のライトを付けたいと。特別なボディ塗装も。磨き仕上げはしない、と記されたメモも発見されました。当時のイタリア経済は厳しく、派手なクルマで走る姿を見られたくなかったのでしょう」
「もっとも、彼はアルファ・コルセの管理をしていて、6C-2500を躊躇なく購入しているのですが」。1942年11月に完成した6Cは、戦前のシャシーとフロアシフトで組まれていた。
「戦争で資材が不足していて、アルファ・ロメオは新しいフレームの製造を禁止されていました。新しい6Cシリーズにも在庫を用いたんです」。と説明するジョルジ。
レストアが進む中で、オリジナルのグレーの塗装が残る部分を発見。再塗装の参考とした。トロッシが指示したメモのとおり、ボディは磨かれていなかった。
当時の写真を見ると、6Cのバンパーには、BRDC(ブリティッシュ・レーシング・ドライバーズ・クラブ)とBARC(ブリティッシュ・オートモビル・レーシング・クラブ)の2つのバッジが付いていた。