【100周年を祝った眩しい緑】3番目に古いシトロエンDS 19 レストアに17年 後編
公開 : 2021.06.27 17:45
インターネットのない時代のレストア
「フランス・カステラーヌのシトロエン・ミュージアムを運営するアンリ・フラデは、カーナンバー32番の初期型と1957年式を所有しています。彼のクルマは、とても役に立ちました」
「スクラップ状態だった1958年式のIDと1959年式のDSも購入しています。部品取り用として」
「ボディやインテリアへ部品を取り付ける前に、本当に正しいか確認する必要があります。レストアを開始した当時は、インターネットは存在しませんでした。部品を見つける手段は、友人や知人とのつながりと、ミーティングなどで開かれる蚤の市」
「クルマが仕上がったのは、とても幸運だったと思います。残せるものは、すべて残してあります。ドアトリムとシートもオリジナルのまま。シートはフォームを交換する前に、フレームをリビルドしました」
「プラスティック製の部品は大丈夫でした。ダッシュボードは割れやすいのですが、1956年と1957年式の方が強度は高いんです。以降はプラスティック素材が変更され、ダッシュボードの多くが歪んでいますね」
初期のDSの部品はリビルドも難しく、フィリッピーニは在庫部品を探し出すか、壊れた部品を修理するか、どちらかの手段を強いられた。特に低圧ポンプのリビルドは、大きな課題になったという。初期のDSで、大きな弱点の1つだった。
このDSの中で唯一、独自に再制作されているのがアルミニウム製のエグゾーストパイプ。純正部品は最後まで見つからず、誰かが過去に作ったという一点物を使っている。
優しくて、とても柔らかいクルマ
リビルドで一番辛かったことと、一番うれしかったことはなんだろう。「ヤスリがけやポリッシュの作業は、かなり大変でしたね。くすみ1つない状態にまで磨くのに、かなりの時間を費やしました」
「ベースのシャシーやボディがブラスト加工され、サビた部品がきれいになり、塗装が仕上がった状態を見た時は、気持ちを強く後押してくれました。トンネルの先に、光が見えたように」。フィリッピーニが振り返る。
ピカピカによみがえったDS 19を、フィリッピーニは月に1度は走らせている。「長距離旅行はしていませんが、これまでに2500kmを重ねています。誰もが故障しやすいと話しますが、信頼性はとても高いですよ」
初期のDS 19のエンジンは、76ps。インジェクション化されたDS 23の131psとは比にならないほど走りは穏やかだ。アグレッシブに運転を楽しむ人のためのクルマではないと、フィリッピーニも認める。
「優しくて、柔軟。とても柔らかいクルマです。DSのペースに、気持ちを合わせる必要があります。過去のフランスへタイムスリップするようです。穏やかな世界へ」。いかにもシトロエンらしい。
少ない生産台数や低かった信頼性、歴史的な価値などを総じて考えると、初期のDSの希少性を改めて実感できる。膨大な手間ひまをかけて仕上げられたレストアには、称賛すると同時に敬服させられる。
シトロエンが100周年をカーナンバー359のグリーンのDS 19で祝おうと考えても、不思議ではないだろう。