【詳細データテスト】アウディe-トロン 速いが刺激はない 新技術は持ち腐れ 快適性と静粛性は上々
公開 : 2021.06.13 11:05 更新 : 2021.06.28 09:23
走り ★★★★★★★☆☆☆
すべてのEVが低速走行時に車外へ向けて発せざるをえない合成音を別にすれば、常にe-トロン Sは不気味なくらい静かに走る。アウディには、ポルシェ・タイカンのような、電子的なエンジン音を使おうという気配すらない。
電気モーターは、機械的にみれば極めて静かに動かせるので、ハードに走らせても、ゆったり流しても、音的に大きな差はない。手短に表現するなら、それが洗練度を高めているということになるのだが、ドライバーズカーとして考えるならよそよそしく、感覚的なエキサイティングさに欠けるともいえる。とはいえ、出来の悪い擬似エンジン音を鳴らすようなことがあれば、それに文句をつけていただろうが。
スロットルレスポンスは、触れただけで弾ける引き金のようなテスラとは異なる。発進は、盛大なホイールスピンで白煙を上げて飛び出していくものではない。とはいえ、以前テストした現行のランドローバー・ディスカバリーより100kgも重い割には、十分にハードなダッシュをみせる。
0−97km/hの実測タイムは4.2秒と、スーパーSUVのテリトリーに入る数字だ。2019年にテストしたe-トロン55に1.4秒もの差をつけていて、それは運転していてもしっかり体感できる速さだ。
しかし、まさにどのようにどこが速いのかが、このクルマの特性を明らかにする。低いスピードから加速していくと、即座にその力を発揮する。48−113km/hは、アストン・マーティンDBXをも上回る。
しかし、シングルスピードの電気モーターは、もっとも効率的な領域を越えると、背中を突き飛ばすような加速力はちょっとばかり弱まる。113-177km/hは8.3秒で、V8を積むDBXの6.9秒より、アウディのSQ7 TDIの9.0秒に近づく。
公道上で出しそうなどの速度域でも、これは速いクルマだが、常にエキサイティングというわけではない。その余力は高速道路よりもA級道路でのオーバーテイクでより物をいうように思えるし、きついコーナーやラウンドアバウトからは驚くような勢いで飛び出していくが、アウトバーンの追い越し車線をブッ飛ばすようなクルマではない。
電動式ブレーキシステムは、踏み込みが軽いときには作動ぶりがじつにいい。バイワイヤシステムとしてこれより人工的なものはほかにいくらでもあるし、効きが唐突なこともない。ところが、ハードに踏むほどに、摩擦ブレーキと回生ブレーキの協調がどんどん不自然になっていく。
制動力そのものは、大きすぎる自重を御するのに苦労するところがある。計測した制動距離は雨天により悪化しているが、本格的なパフォーマンスカーもウカウカしていられない実力の片鱗は垣間見えた。