【詳細データテスト】アウディe-トロン 速いが刺激はない 新技術は持ち腐れ 快適性と静粛性は上々
公開 : 2021.06.13 11:05 更新 : 2021.06.28 09:23
操舵/安定性 ★★★★★★★★☆☆
e-トロン Sは、安心感のある落ち着いたハンドリングを備える。多くのユーザーはそれを望むだろうが、革新的なところはまったくない。ただし特定の環境下では、このサイズと重量のクルマとしては特筆すべきものとなりうる。
しかし、日常使いで、社会的責任の範囲内で楽しもうと思ったら、その他大勢の速いSUVにみられるようなコーナリングバランスやハンドリング、一体感のある走りを超えることはできない。凝ったリアアクスルがハンドリングに及ぼす違いが現れるのは、グリップ限界を超えた場合のみ。それを体験できる状況は滅多にないはずだ。
走行モードはアウディでおなじみのメニューに、より悪路に適したオールロードとオフロードが加わった。地上高やスプリングレート、ダンパーが、各モードごとに自動調整される。中庸のセッティングなら、乗り心地はかなりしなやかでなめらかだ。たとえ、手のかかる道で飛ばすと、思っていたより波が長いボディの動きを許容するとしてもだ。
ダイナミックかエフィシエンシーのいずれかのモードを選択すると、車高が下がり、ボディコントロールのプライマリーライドは引き締まるが、衝撃吸収性は低くなり、鋭い入力に過敏で不安定なところを感じさせはじめる。郊外路では、中間域の快適性と運動性との妥協点が見出しにくいかもしれない。
バンプや荒れた路面を走るときに比べれば、コーナーではウェイトをうまく制御できている。旋回時にはロールはするものの、揺れ幅は小さく、極端なほどではないので、ナチュラルかつ正確に走行ラインをたどることができる。スピードの乗るコーナーでは、よくも悪くも、まさに大きく速いアウディはこうだろうと思う反応を返してくる。
しかし、タイトコーナーで、ダイナミックモードを選び、ESCの効きを弱めると、トルクベクタリングシステムがもっとも大胆に機能する。安定しつつもアンダーステアが顔を出し、限界に近づいていることをクルマが知らせてくるが、そのコーナリング姿勢をパワーの加減でニュートラルに近づけるのは簡単だ。
そのあとは、もちろん安全な状況であればだが、軽くステアリングを切ったままで、無茶な運転をしなくても、パワーオーバーステアを維持できる。2.6tを超えるアウディの電動SUVがドリフトするというのはなんとも斬新な話だが、自分で経験するとなればなおさらそう思える。
残念なのは、この秘密兵器を発動させるには、かなりハードに走らせなくてはいけないということだ。また、リアアクスルは日常使いのハンドリングを豊かなものにするためには機能してくれない。e-トロン Sは心地よく、安定して走ってくれるが、スリリングなところはめったに見せてくれない。