【AUTOCARアワード2021】トーマス・インゲンラート スターメー賞 率直でクリエイティブなCEO
公開 : 2021.06.10 18:05
CEOの個性を反映したブランド
インゲンラートの人事異動は2017年の中頃に発表された。ポールスターの要となるモデルに2が採用されたことで、はるかに高級で高価な「アナウンスメントモデル」である1にも変化が生じた。クロームを取り除き、より先進的なデザインになったのだ。
カラーとトリムの担当者は、マットホワイトのフィールドにグロスホワイトでロゴを描くというアイデアを思いつき、それが功を奏した。
「彼らの言うことが正しいと理解するのに数日かかりましたが、今では元に戻すことは考えられません。CEOになってすぐに学んだことは、変化への順応を加速させなければならないということでした。会社があまりにも急速に成長し始めたため、3か月後には主要な手順のいくつかが意味をなさなくなってしまったのです」
ポールスターはクールで、モダンで、スタイリッシュで、攻撃的ではなく、環境に配慮し、スカンジナビアデザインの基本的な価値を尊重している。正直なところ、新ブランドはインゲンラート自身のイメージに沿って意図的に形成されたように見える(それが彼にAUTOCARアワードを授与する理由でもある)。
そのことを本人に問うと、言葉の選択に迷った末、「その通りです」と答えた。
「なぜそれが良いことなのかというと、わたしは役割を演じる必要がなく、ありのままの姿でいられるからです。新しいブランドを立ち上げたばかりの頃は、クルマのデザインだけでなく、事業全体を発展させるための価値観についても、配慮と情熱と愛情をもって取り組む必要があります。もし、それらをリーダーと結びつけることができれば、特に初期段階では大きなメリットがあります」
「その後はあまり重要ではなくなります。長い歴史を持つポルシェでは、そのブランド・バリューについて今更説明する必要はありません。でも、最初の頃は重要なんです」
何にでも首を突っ込みたがる
インゲンラートは、「何にでも意見を言う」という自身の評判が、この仕事につながったと考えている。ポールスターは、ロゴやレターヘッドをはじめ、見込み客へのメールでの連絡方法、公道での走行テスト、ショッピングモール内の「ブランドセンター」開設など、デザインに関するすべての事項に細心の注意を払っている。
英国では、サッカー選手のマーカス・ラッシュフォードが行っているチャリティー活動に食料を寄付するよう、関係者に呼びかけたこともある。
「ポールスターのスタッフはわかっているんです。わたしがすべてに首を突っ込まないとは限らないとね」とインゲンラートは笑う。
インゲンラートによると、デザイン責任者からCEOへの転身は、多くの人が想像するような大掛かりなものではなかったという。
「チーフデザイナーは感情やインスピレーションで動くものだと思われがちですが、実際にはビジネスや経済、技術などをよく理解していないと、議論では存在感を示せません。議論に勝てるだけの情報を持っていなければ、自分の仕事をしたことにはならないのです」
しかし、さまざまな責任があるにもかかわらず、彼がCEOになって感じた最大の喜びは、ある種の自由な感覚だ。
「正直に言うと、大好きです」と彼は明かす。「過去に提供したものに左右されることなく、ブランドの舵取りをすることは、デザイナーにはない純粋な喜びです」
「数年前、ボルボのソリューションとしてマットウッドを宣伝するプレゼンテーションを行ったことを覚えています。誰もが『素晴らしい』と言ってくれました。わたしは何かを成し遂げたと思い、いい気分になっていたのですが、その時、ある人にこう言われました。『ちなみに、ここ米国ではよく磨かれたウッドが求められるんですよ』と」
「マーケティングに携わる人は、自分の領域は他とは違うと考えるものです。しかし、今ではわたしが世界を支配しています。少なくともウッドの仕上げに関する限りはね」